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負ののれんが発生するM&Aとは?|負ののれんの原因、売り手企業と買い手企業に与える影響


公開日:2021年5月14日  最終更新日:2022年11月18日

M&Aにおける「負ののれん」とは?

M&Aにおいて買い手が支払った対価の総額と、被取得企業から受け入れた資産または、引き受けた負債に配分された純額との間に差額が生じる場合があります。この差額を、「のれん」または「負ののれん」と呼びます。

ここでは「負ののれん」について、「のれん」との違いや「負ののれん」が発生する原因などに触れながら紹介します。

のれんとは?

M&Aの買収価格は、会社の将来キャッシュ・フローの分析や類似企業との比較、純資産価額といった様々な要素を総合的に勘案して決定します。この 買収価格が被買収企業の時価純資産額を超える場合、当該差額は買収企業の連結貸借対照表の無形固定資産に「のれん」として計上されることになります。

「のれん」は、店先にかかっている屋号などが書かれた暖簾に由来します。暖簾そのものはただの布切れで価値はありませんが、知名度や品質など、当該企業が有する超過収益力の象徴と考えられているため、M&Aにおける見えない資産価値のことを「のれん」と呼んでいます。

のれんの算定方法

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」によれば、「取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとして」会計処理を行うと定められています。実務上、のれんの金額は取得原価の配分手続(Purchase Price Allocation, “PPA”)を経て算定されますが、大まかに、「のれん」は「M&Aの買収金額-買収した企業の時価純資産額」で算出します。

例えば、時価純資産額10億円の企業の発行済株式の全部を12億円で買収したケースでは、差額の2億円が「のれん」となります。つまり、買収価額(株式の取得原価)と純資産額の差額の2億円が買収した企業の超過収益力を表す「のれん」となります。

差額がプラスであれば「のれん」として連結貸借対照表の無形固定資産に計上されますが、差額がマイナスの場合は「負ののれん」となり会計処理上は「負ののれん発生益」として連結損益計算書の特別利益に計上されることになります。

「負ののれん」と「のれん」の違い

M&Aの買収価額から買収した企業の純資産を引いた計算結果がプラスであれば「のれん」、マイナスであれば「負ののれん」となります。

つまり、買収価額と企業の純資産の差がプラスであれば、純資産以外の見えないブランド価値が買収価格に反映されていたことになります。

一方で、 買収価額と純資産価額の差額がマイナスである場合、純資産価額には反映されていない何らかのリスクが買収価額に反映された可能性があります。

会計処理の違い

「企業結合に関する会計基準」では、「のれん」が生じた場合には、連結貸借対照表の無形固定資産として計上することが要求されています。当該のれんは、20年以内のその効力が及ぶ期間にわたって、毎期一定の額を償却し、償却費は販売費及び一般管理費として計上します。

一方「負ののれん」は、全額を当該事業年度の利益(特別利益)として計上することになります。当該年度の利益に一括計上するため、「のれん」のように無形固定資産を連結貸借対照表に計上することはありません。

「負ののれん」が発生するM&Aは、売り手企業の経済合理性に反する

経済学の世界では、複雑な社会をシンプルに把握することを目的に「人は経済的に損をしない行動をとるものである(経済合理性)」という考え方をしています。

「負ののれん」が発生するM&Aを買い手企業の立場で考えると、対象企業の純資産を下回る金額で買収しており、いわば“安い買い物“であるため経済合理性にかなった行動といえます。

一方、視点を変えて 売り手企業の立場で考えると、時価純資産額より安い金額で売却することは「経済合理性に反する行動」といえます。純資産を下回る額で売却するよりも、廃業(清算)した場合のほうが理論上は多くの財産が手に残ると考えられるからです。

にもかかわらず、売り手企業が廃業でなく売却を選ぶ背景には、「早期に売却して現金を確保したい」「長い間企業に貢献した社員の雇用を維持したい」「企業のブランドを残したい」といった経営者の思いがあるケースが多いようです。

「負ののれん」が生まれる3つの原因

では、どのような場合に、売り手企業の時価純資産額より安い金額での買収が行われるのか、つまり「負ののれん」が生まれる原因を3つご紹介します。

原因1:売り手企業に重要な簿外債務がある

簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです。中小企業が抱えている簿外債務の例として、債務保証や未払いとなっている給与及び退職金があげられます。

債務保証は、親族が経営するほかの会社の連帯保証人になっていることで発生することがあります。

M&A交渉の過程で重要な簿外債務の存在が明らかになった場合、株式価値が低く評価されることがあり、結果として「負ののれん」が発生することがあります。

原因2:売り手企業が損害賠償リスクを抱えている

売り手の企業が損害賠償請求をされるリスクを抱えている場合、表明保証等で別途手当てしていない限り、買収後に発生した買収事業に係る損害賠償は買収した企業が賠償責任を負わなければなりません。

そのため、 損害賠償リスクの高い企業を買収する場合は、想定される負担額を差し引いて買収額を決定する場合があります。想定される負担が大きい場合は、「負ののれん」が発生する可能性があるのです。

原因3:売り手企業の業績が悪化している

業績が悪化していて、買収後に赤字を抱える可能性があるような場合は、 業績がさらに落ち込むリスクを織り込んで買収価格を設定するため、負ののれんが発生することがあります。

このようなケースは、買い手主導による事業再生をもくろんでいる場合に行われます。

納得のいくM&Aを実現するための3つのポイント

負ののれんは、M&Aを実行した事業年度に、買い手企業の「特別利益」として一括計上します。つまり、 負ののれんが発生するM&Aが必ずしも悪いわけではありません。重要なことは、M&Aの目的に合わせた合理的な意思決定を行うことです。

そこで、ここでは買い手企業が納得のいくM&Aを行うために必要な項目3つをご紹介します。

ポイント1:正確に企業価値を見極める

M&Aにおける企業の価値評価方法には、さまざまなアプローチがあります。 M&Aの企業価値評価においては、単一の手法だけでなく企業の業種や状況に合わせた複数の手法を組み合わせることで、より合理的な企業価値を算出することが一般的です。

買い手として、買収価格を算出した際に「負ののれん」が発生することが想定された場合には、取引価格に影響する要素がきちんと反映されているか見直すことをおすすめします。

参考記事:企業価値評価の手法から考える、企業価値向上のための4つの方法とは?|M&A to Z

ポイント2:説明責任を果たすために深度のあるDDを行う

負ののれんは実務上頻繁に発生するものではありません。そのようなM&Aを行う以上、経営者としてより一層の説明責任を果たす必要があります。

「負ののれん」が発生することに必ずしも問題があるわけではありませんが、経営者としてステークホルダーに説明責任を果たせるよう、深度のあるDD(デュー・ディリジェンス)を実施し、識別したリスクに対して適切な手当てを行う必要があります。

ポイント3:専門家に相談する

のれんが発生するか、負ののれんが発生するかにかかわらず、買収後のPPA(取得原価の配分手続)では無形資産の識別等の高度な手続の実施が要求されています。

自己流で行うのではなく、 PPAを専門とする会計事務所やコンサルティング会社に相談することをおすすめします。

負ののれんが発生するM&Aは“問題あるM&A”ではない

これまで見てきたとおり、 M&Aで「負ののれん」が発生すること自体が、買い手企業に悪影響を及ぼすわけではありません。

ただし、負ののれんが発生するか否かにかかわらず、M&Aは企業の業績に大きな影響を与えます。

M&Aを行う場合には、上記で紹介した3つのポイントをもとに、合理的な取引となっているかどうか慎重に判断する必要があります。

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