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DCF法とは?DCF法による企業価値評価のメリット・デメリット|評価のポイント5選


公開日:2021年5月25日  最終更新日:2022年11月18日

DCF法とは?

DCF法は、Discounted Cash Flow Methodの略称です。日本語では「割引現在価値法」などと訳され、企業の収益力をベースとした企業評価手法(インカム・アプローチ)の中では実務上最も一般的な評価手法の一つです。

DCF法では、企業が将来獲得すると予測されるFCF(フリー・キャッシュ・フロー)に焦点を当てて、企業価値を算出します。予測されるFCFを適切な割引率(将来のある時点の価値を現在の価値に変換する際の割合)で現在価値に割り引いた、割引後キャッシュ・フローの合計を事業価値ととらえるため、理論的な手法であると考えられています。

企業価値とは企業全体の経済的価値のことをいい、事業の価値だけでなく非事業資産の価値も含む概念を指します。株主価値とは、企業価値から有利子負債等の他人資本を差し引いた株主帰属する価値を指します。

企業価値とは、企業全体の価値であり、事業価値とは事業用資産などの将来的な収益価値の総和です。株式価値とは、株式においての価値を指します。

企業価値評価とは

企業価値評価はバリュエーションともよばれ、企業の妥当な価格レンジを算出し、M&Aにおける買収判断を助けるものです。M&Aにおいては、買い手・売り手の双方にとって、意思決定の土台となる重要なものといえます。

企業価値評価を行う手法には、DCF法などのインカム・アプローチ以外にも、対象企業の純資産に着目して評価するコスト・アプローチ、同業他社の財務情報や過去の類似取引などをもとに対象企業の相対的な価値を評価するマーケット・アプローチなど、さまざまな手法があります。

DCF法の計算で使われる指標について

DCF法ではFCFをWACC(Weighted Average Capital Cost:加重平均資本コスト)で割り引いた現在価値の合計を事業価値と考えます(注)。この事業価値に非事業資産の価値を加えたものが企業価値になります。

なお、企業価値評価において「事業価値」「企業価値」「株主価値」といった専門用語が登場しますが、それらの内容については本記事の「DCF法の企業価値評価のポイント5選」で説明しています。

ここからは、企業価値評価の代表的な手法のひとつであるDCF法の計算に必要な指標について紹介していきます。

(注)DCF法は事業価値を算出するエンタープライズDCF法と株主価値を算出するエクイティDCF法に大別されますが、本記事では特別な断りがある場合を除き、エンタープライズDCF法を前提として執筆しています。

 

FCF(フリー・キャッシュ・フロー)

FCF(フリー・キャッシュ・フロー)とは、企業が事業活動を通じて獲得した資金から設備投資などに投下した額を差し引いて手元に残った資金を指します(注)。

DCF法により事業価値を算出する際、将来獲得できると期待されるFCFを適切な割引率で割引き、現在価値を求めるというのが基本的な考え方です。FCFは以下の計算で求められます。

FCF=営業利益×(1-税率)+減価償却費-設備投資額-正味運転資本増加額

FCF自体は、企業の貸借対照表および損益計算書から算出できます。DCF法による企業価値評価を行う際には、通常対象会社の事業計画を入手し、当該事業計画に基づいて算定します。

(注)FCFは、その帰属先の観点から、FCFF(Free Cashflow to the Firm:営業フリー・キャッシュ・フロー)とFCFE(Free Cashflow to Equity:株主に帰属するフリー・キャッシュ・フロー)に区別されます。本記事ではエンタープライズDCF法を念頭に置いた記載をしていることから、FCFFを前提に説明しています。

 

FCFの算定の注意点

企業が事業拡大のために多額の設備投資を行うと、財務の安定した企業であっても、FCFが一時的にマイナスになることがあります。

そのため、DCF法にて企業評価する際には、単年度のFCFだけでなく、3〜5年程度の複数年分のFCFを利用します。

WACC(資本コスト)の調整

FCFを現在価値に割り引く際には、WACCを用いるのが一般的です。 WACCは、負債コストと株主資本コストを資本構成で加重平均して算出します。

理論上、企業はWACCを上回る投資リターンを生み出すことで資金提供者(債権者及び株主)の期待に応えたと考えられます。つまり、WACCは企業が最低限超えなければならない数字なのです。

WACCの計算式は次の通りです。

WACC=有利子負債総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×(1-実効税率)×負債コスト+株式時価総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×株主資本コスト

企業はWACCを超える投資収益率を達成しなければならないとはどういうことか、数値例を用いて説明します。

例えば、ある企業Aの有利子負債時価が100億円(金利2%)、株式時価総額が300億円(株価が300円、発行済株式数が1億株、投資家の期待リターン8%)であると仮定します(単純化のために税金の存在は無視します)。

この時、企業AのWACCは上の式に基づき

2%×100億円/(100億円+300億円)+8%×300億円/(100億円+300億円) = 6.5%

と計算されます。

企業Aは毎期獲得したリターンから負債の利息として100億円×2%=2億円を債権者に支払う必要があります。

また、企業Aは株主に対しても300億円×8%=24億円のリターンを毎期還元する必要があります(単純化のために毎期配当するものと仮定します)。この時、企業Aは毎期2億円+24億円=26億円以上のリターンを獲得しなければ、債権者と株主の期待に応えることができません。

つまり、企業Aは、100億円+300億円=400億円の資本を利用して26億円以上のリターンをあげる、換言すれば6.5%(26億円/400億円)以上の投下資本収益率を挙げる必要があるということがわかります。

株主資本コスト

株主資本コストは、株主が企業に対して期待する利回りのことです。株主資本コストは負債コストよりも高いことが一般的です。このため、負債比率が低ければWACCが上昇し、逆に負債比率が高ければWACCが下落すると考える方もいるかもしれません。

しかし、負債比率が極端に上昇すれば倒産リスクが高まるほか、利益のボラティリティも上昇するため、債権者・株主ともにより大きなリスクを負うこととなり、結果として負債コストと株主資本コストは上昇します。

したがって、企業価値を高めるうえでは、負債比率を上げてWACCを下げようとするのではなく、事業のキャッシュ・フロー創出力を伸ばしFCFを増加させる努力をすることが肝要と言えます。

DCF法の企業価値評価の長所(メリット)

DCF法にはどのような長所(メリット)があるのでしょうか。DCF法の特徴やDCF法が向いている企業の特徴などから、DCF法が有する長所について紹介します。

このあとご紹介するDCF法の短所と比較して、DCF法による企業価値評価の結果を検討する際の参考にしてみてください。

メリット1:ある程度の柔軟性がある

DCF法では対象企業の事業計画をもとに将来キャッシュ・フローを見積るため、対象企業固有の事象を柔軟に反映させることができるという長所があります。

一方で、FCFの基盤となるEBITDA等は、評価者によって注目するポイントが異なる場合があるため、唯一の正解が存在するわけではありません。裏を返せば、評価する人によって算出される企業価値に差がでるため、恣意的な操作が可能となる短所がある点には留意する必要があります。

メリット2:合理的で納得感の高い結果を得られる

DCF法は、企業が持つ収益力に着目した評価手法であるため、収益力の安定した大企業はもちろん、足元では赤字でも近い将来に大きく成長すると見込まれるベンチャー企業、特殊な技術やノウハウを持つ企業の評価といった幅広い企業の企業価値評価に用いられています。

計算が煩雑である反面、 精度の高い事業計画が存在する企業であればFCFの見積りに関して大きく意見が割れる可能性が小さくなるため、特に成熟企業にとって合理的で納得感のある評価結果が得られやすいと言われています。

DCF法の企業価値評価の短所(デメリット)

続いては、DCF法の短所(デメリット)についても3点ご紹介します。DCF法による企業価値評価の結果検討する際には、DCF法の短所についても理解したうえで判断を下すことが重要です。

デメリット1:相対的に計算の難易度が高い

DCF法では、会社が将来生み出すFCFをもとに企業価値を算出するため、さまざまな角度からの算定が必要で、複雑な計算をしなければなりません。

買収を行う企業の将来計画などは予測がほとんどであるため、アグレッシブな計画にするのか、コンサバティブな計画にするかなど交渉も必要です。 DCF法は論理的で合理性が高いといわれますが、その反面、計算の難易度が高いことがデメリットです。

デメリット2:わずかな仮定の変化が算定結果に影響する

DCF法は、将来生み出される収益から価値を算出しますが、将来の収益はあくまでも予測ですので、確定したものではありません。そのため、 将来計画を仮定する段階でのわずかな差で、算出される価値に大きく影響する可能性があります。

デメリット3:客観性が低くなる可能性もある

DCFでは一般的に5年程度の事業計画を入手しますが、計画期間以降のFCFについては5年後のFCFに一定の成長率を乗じて推定します。

このようにして推定されたFCFの割引価値合計は継続価値(ターミナルバリュー)と呼ばれ、DCF法により計算された企業価値の大部分を占めることが一般的です。そのため5年後のFCFを楽観的に考えれば企業価値が大きくなり、悲観的に考えれば企業価値が小さくなるでしょう。

つまり、 将来価値の見積もりによって、企業価値が大きく変動してしまうため、客観性が低くなってしまう可能性があります。

しかし、5年目で急激に業績が成長する事業計画を作成してもその信頼性には疑問符がつきます。1年目から合理的な成長ストーリーをもって5年目のFCFにつながるような、精度の高い事業計画を作る必要があります。

将来計画に信頼性がなければ、そこから算出される将来価値も信憑性の乏しいものとなってしまいますので、いかに合理的な事業計画を策定できているかがポイントとなってくるのです。

DCF法の企業価値評価のポイント5選

DCF法による企業価値評価のプロセスは、大きく分けて、計画期間におけるFCFの算定、計画期間以降の継続価値の算定、割引率の算定、計画期間のFCFと継続価値の現在価値への割引き、の4段階に区分されます。

継続価値とは、計画期間以降における対象会社のFCFを割り引いたものを指します。それぞれのステップにおいてどのようなポイントがあるかを紹介します。

ポイント1:計画期間におけるFCFの算定

上述の通り、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)とは、企業が事業活動を通じて獲得した資金から設備投資などに投下した額を差し引いて手元に残った資金を指します。

FCFは、DCF法による企業価値評価の土台となる重要な要素です。FCFを精度高く見積もるためには、その根拠となる事業計画の精度を高くする必要があります。 売上高の成長率や設備投資計画など、重要性の高い項目についてはきちんとした裏付けを準備することが重要です。

ポイント2:割引率の算定

割引率は、将来の価値を現在の価値に換算する際に用いる割合のことを指します。DCF法においては割引率がわずかに変動するだけで事業価値が大きく変わることもあるため、割引率の算定は重要なステップのひとつといえます。

DCF法の割引率は、一般的にはWACCを用いますので、負債コストと株主資本コストを加重平均して算出します。具体的な計算式は既に紹介していますが、改めて記載します。

WACC=有利子負債総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×(1-実効税率)×負債コスト+株式時価総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×株主資本コスト

WACCを算定するうえで実務上ポイントとなるのは、株主資本コストの算定です。通常、株主資本コストはファイナンスにおけるCAPM(キャップエム)という理論に基づいて算定されます。

CAPMに関する説明はここでは割愛しますが、算定の過程で対象会社と類似の事業を展開する上場企業を選定し、当該類似企業群の財務数値を利用する場面があります。

この 類似企業の選定においては、企業規模や製品の特徴、資本構成といったさまざまな要素を総合的に勘案しますが、どの企業を選定するかによって株主資本コストが大きく変わる場合がありますので、慎重に判断する必要があります。

ポイント3:継続価値の算定

継続価値とは、ターミナルバリュー(TV)ともよばれ、事業計画の最終年度以降に生じるFCFの現在価値の総合計のことをいいます。

FCFは、事業計画をもとに予測しますが、DCF法では事業計画期間以降のFCFも事業価値を構成します。そこで、DCF法では事業計画期間以降も企業が一定の成長率で成長していくと仮定して、以下のように企業の継続価値を算出します。

継続価値(TV)= 計画期間最終年度のFCF×(1+永久成長率)÷(割引率-永久成長率)

しかし、上記はあくまでも計画期間末時点におけるTVの計算式ですので、 評価基準日でのTVは、さらに加重平均資本コスト(WACC)で割り引く必要がある点に注意しましょう。

ポイント4:事業価値の算定

ポイント1で計算した毎期のFCFとポイント3で計算した継続価値をポイント2で計算した割引率で割り引くことで、事業価値を算定できます。

ポイント5:企業価値の算定

DCF法では、算出した事業価値に、非事業用資産の価値を加えて企業価値を算出します。

非事業用資産には、現金預金、有価証券などの余剰資産、遊休資産などが含まれ、売却価格の時価で評価します。

DCF法で適正な価値評価を算定しよう

DCF法は、対象企業固有の収益力に着目しているため、理論的な手法であると考えられています。

しかしながら、 事業計画の精度によって算出される企業価値に大きな差が出ることもあるため、DCF法の特徴や注意点を十分理解したうえで利用しましょう。

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