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嫌われる売り手企業の条件。買い手企業はどのような観点で売り手企業をみているのか?


  

M&Aの際、買い手に買いたいと思われるような売り手企業は、財務諸表の売上や利益が大きい若しくは伸びている企業だけとは限りません。買い手は買収を行うことで、自社の存続に重大な影響を及ぼすようなリスクを抱えることを恐れます。買い手にとってみれば、買収を検討している企業の売上や利益がどのように構成されているのか、また、将来の売上がどのように変動していくかがとても気になるところです。今回は、様々な観点から魅力的な売り手企業について考えてみましょう。

売上・利益ポートフォリオ

ポートフォリオとは、株式や債券などの金融商品取引やビジネス上でのリスク管理のためにどのように資産や事業を組み合わせるかということを指します。例えば、金融商品取引では、国内外の株や債権などに投資対象を分類し投資金額を配分する方法が広く使われています。一方で、ビジネス上で使われるポートフォリオとは、企業の各事業がどのように組み合わされているか、また、販売している製品や売上がどのように構成されているかということを指します。

例えば、アパレル企業でのポートフォリオを考えると、高所得者向けの高級ブランドと一般消費者向けの中堅ブランドの両方を展開することがリスクヘッジとなります。これは、景気が低迷した際に、高級ブランドに比べ中堅ブランドは消費が落ちにくいためです。このようにM&Aにおいては、売上・利益ポートフォリオという視点で全体と個別の事業の収益性を考慮し、いくつかの事業を組み合わせることでリスク管理していく戦略もあります。

 

ポートフォリオの分散と集中

続いて、M&Aにおいてどのように事業を組み合わせるのが良いかを考えていきます。売上・利益ポートフォリオが分散、集中するのは、それぞれ一長一短あります。売上・利益ポートフォリオが分散している状態ではリスクを分散できます。企業の事業が多岐にわたっているため、ある事業の落ち込みを他の事業で補えることができます。

例えば、スーパーなどの小売事業を行なっている企業が、外食チェーンを運営する場合を考えてみましょう。この場合、景気が悪くなって外食店舗の売上が下がったとしても、小売事業を行っていることで、外食から内食に切り替えた消費者の需要を獲得することができます。買収後に事業ポートフォリオが分散し多角的な構成になる場合は、売上や利益が増減するリスクを分散することができます。

一方、売上や利益の割合が1つの事業やサービスに偏っていて、売上・利益ポートフォリオが集中している状況を考えてみます。

例えば、エレクトロニクス部門だけに特化している日本の企業があると仮定します。部門特化なので社内リソースが分散しないため、推進力を保てるメリットがあるでしょう。しかし、既存のエレクトロニクス部門は、将来的に新興国がより安価な商品を普及させてくることが予想されます。その際に、既存のエレクトロニクス事業が伸び悩むとそれ以外の事業を行っていないため、経営状況が厳しくなってしまいます。

この例からもわかるように、ポートフォリオを集中させた場合、1つの事業の業績不振が他の事業でフォローすることができないデメリットがあります。

また、同じような領域の事業を買収する場合について考えてみましょう。例えば、自動車メーカーがバイクメーカーを買収するような場合です。この場合、両者の利益を単純に合計するよりも大きな効果が生まれます。つまりシナジー効果が生じる可能性があります。

その要因は、販売面、生産面、投資面、経営面などでそれぞれ共通のノウハウなどを利用でき、相乗効果が生まれやすくなるためです。その一方で、製品に欠陥が見つかった場合などは、ブランド価値の毀損により一気に両方の事業が傾くリスクも考えられるでしょう。

このため、リスクヘッジを重視したい場合は、事業同士の距離感がある程度必要であると考えられます。しかしながら、リスクヘッジのために違う領域の事業を買うと、事業に関する競争力が低下してしまうリスクもあります。これは、多様な事業を展開するコングロマリット企業における課題といわれています。

そのため、ポートフォリオ経営を目的としたM&Aを行う場合は、自社事業のシナジー効果とリスクの両方のバランスを考えながら検討する必要があります。

 

売上が変動する場合

ポートフォリオ以外の観点から売り手の企業について考える際、売上にどれほど波があるかも大きな指標になります。売上に波がある事業領域の例としては、贅沢品など高単価商材、あるいはサービスや広告等の無形商材などが一般的です。その他にも、海外との輸出入取引が増加している今、扱う商品によっては、為替の変動による売上高への影響が起こりうることも考慮しなくてはなりません。

売上の波を解決するために、高級商材と低単価商材の両方を組み合わせることでポートフォリオを形成している場合もあります。また、景気の波に飲まれやすい商材であっても、リピート顧客のLTV(Life Time Value)を高めることや、低単価のマーケティングコストで新規顧客を獲得することができるチャネルを構築するなどの工夫ができることもあります。一方で売上変動が少ないものとは、景気が変化しても需要が変動しない日用品などを指します。

売上が安定している企業では、事業領域の観点とは別に、リピート顧客が一定数いる場合や絶え間なく新規顧客の獲得ができている場合が多いと考えられます。需要の変動が起きないようなその企業独自の強みがあるといった要因も考えられます。つまり、ポートフォリオとは違った観点から売り手企業を見た際に、その企業が外的要因によらず安定した売上を出せるかどうか、というのがM&Aにおいて大切になってきます。

得意先が集中している場合

売上の波だけではなく、どのような顧客に対して売上が生じているのかを分析することも、M&Aにおいては必要な視点です。売上の大部分が大企業1社によるもので、その得意先に依存してしまっているという状況は意外にも珍しくありません。しかし、その得意先との関係が、企業の担当者の属人的なものであったり、経営者によるところが大きかったりする場合、M&Aによって経営主体が変わっても、なお得意先を保てるかについては議論の余地があるでしょう。

その担当者が辞めたり、経営方針が合わずにその企業とのやり取りを終了することになった場合、大きな減収になることが考えられます。また市場の状況や景気の変動などを考慮しても、いつ契約が切られてしまうかわからないような不確実な時代になったからこそ、1社に依存しない取引先との付き合い方が重要になってきています。この意味で、顧客基盤が分散していて、複数の得意先を持つ企業の価値が高く、人気も高いと言えます。

まとめ

M&Aを行う際には、まず売上・利益ポートフォリオという視点で、売り手企業の収益性を全体的に捉え、その利益の内訳も考慮し、事業をうまく組み合わせることで分散的にリスクを管理していくことが大切です。この際、自社事業のシナジー効果を考慮し、かつ競争力を失わないようにすることが必要になってきます。また、外的要因によらず安定した売上を出せるか、複数の得意先を持っているかなど、顧客基盤が分散しているかについても買い手が重視するポイントです。買い手側の目線に立った上で、M&Aにおける魅力的な売り手企業とはどんな企業なのかを、様々な観点から捉え直してみましょう。


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