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リンク・セオリー・ジャパンが米セオリー本社を買収するまで


今回はファッションブランド「Theory」を展開していた米国セオリーグループ本社を当時のリンク・インターナショナルがどのように買収(そしてリンク・セオリー・ジャパンの設立)まで至ったか紹介し、はたしてこのスキームは成功だったのか、さらに一代で約200億円と言われる資産を築いたリンク・セオリー・ジャパン創業者の佐々木氏について紹介します。

リンク・インターナショナルの概要

1997年コンテンポラリーな婦人服ブランド「Theory」が、アンドリュー・ローゼン氏によって設立され、1998年にアンドリュー・ローゼンの知人である佐々木力氏によって株式会社リンク・インターナショナルは設立されました。佐々木氏は、ファーストリテイリングに会社売却後、2011年8月に逝去するまでファーストリテイリングの上席執行役員を務め、ファーストリテイリングの海外進出を推し進めた人物です。

1999年リンク・インターナショナルのセオリーブランド輸入開始、2000年には米国のセオリーグループとライセンス契約を締結しました。佐々木氏はリンク・インターナショナル創設にあたり、大手アパレル出身の畑誠氏(現リンク・セオリー・ジャパン社長)、メガバンク出身のCFO大西秀亜氏(現在は転職し経営コンサルタント)とのチームワークで同社を大きく成長させていきました。

リンク・インターナショナルによる米・セオリー社買収

図1

2003年9月、リンク・インターナショナルはファーストリテイリングと共同出資により、米国セオリーグループの買収を行いました。この買収のスキームは、リンク・インターナショナルとファーストリテイリング、さらにセオリー代表のアンドリュー・ローゼン氏でL&F Holdingsを設立(図1①)、ファーストリテイリングはリンク・インターナショナルの第三者割り当て増資により出資金67億円で株式47.1%を取得、同時にファーストリテイリングの所有するL&F Holdingsの株式を全てリンク・インターナショナルに譲渡。これによるリンク・インターナショナルの保有するL&F Holdings株式は89%となり、米国セオリーグループの株式を1億ドルで全部取得(図1②)しました。

またファーストリテイリングは米国セオリーグループの買収を目的として設立したL&F Holdings(Theory Holding Inc)に対して、9900万円の債務保証を行うことも併せて発表されました。また、佐々木氏はFast Retailing USAの 取締役会長兼CEOに就任しました。

各社の米セオリー買収の狙い

この買収におけるリンク・インターナショナル側の背景には、当時メンズや子供服、マタニティなどの展開による多角化戦略を試みたが集客力が上がらず、成長の陰りがみえていたことがあります。そんな状況を打開する戦略として米国本社を傘下に収めることにより服飾雑貨等に進出、複合ブランド化を目指すという狙いがありました。

一方ファーストリテイリング側は、セオリーの経営権を取得し今後のセオリーブランドの開発・発展を目指し「米国市場への第一歩」とする考えにあったようです。宝塚社長は『セオリーブランドをより強固にし、ユニクロとは違う価格面での多角化を目指す』とのこと。

またこの買収をファーストリテイリングが単独でせず、共同出資を選択した理由として、子会社であるユニクロのもつ低価格イメージがセオリーブランドに悪影響が出ることを懸念したためと考えられています。

リンク・セオリー・ホールディングスの上場

2003年、米国セオリーグループを傘下に収めると同時に、日本国内の事業を二代目となるリンク・インターナショナル(現リンク・セオリー・ジャパン)に移管することになりました。これに伴い2005年2月1日、(初代)リンク・インターナショナルはグループ会社を統括・管理するための会社としてリンク・セオリー・ホールディングスに商号変更。さらに、二代目リンク・インターナショナルはリンク・セオリー・ホールディングスの持株会社となりました。

また同年6月9日リンク・セオリー・ホールディングスは時価総額535億9500万円で東証マザーズに上場しました。

リンク・セオリー・ホールディングスのファーストリテイリングによるTOB。そして上場廃止へ。

図2

ファーストリテイリングは兼ねてから「グローバルワン 全員経営」という経営体制を推進してきました。これは各エリアの文化、価値観、歴史を尊重しビジネスプロセスをグループ、グローバルで統一するというものです。

この「グローバルワン」の実現を目指す一環として、2009年に佐々木氏が、株式会社ファーストリテイリング入社し、上席執行役員に就任。3月にファーストリテイリングが株式公開買い付け(TOB)を行い、同年7月にリンク・セオリー・ホールディングスを完全子会社化しました。(図2)

図3

翌年、ファーストリテイリングがセオリー事業の再編を発表。2010年6月1日付で二代目リンク・インターナショナルが存続会社となり、リンク・セオリー・ホールディングスと小売店舗の運営を行っていたリンク・セールスコーポレーションを吸収合併する買収が発表されました。(図3)この合併により、被合併会社のリンク・セオリー・ホールディングスとリンク・セールスコーポレーションは解散となり、商号変更によってリンク・インターナショナル(二代目)はリンク・セオリー・ジャパンとなりファーストリテイリングの100%子会社となりました。

リンク・セオリー・ジャパンの業績

ここまで様々な企業業態の変化があったリンク・セオリー・ジャパンですが、現在の業績からセオリー本社買収はどのような影響をもたらしているのかをみていきます。

買収〜現在

2009年3月ファーストリテイリングがTOBを行い、7月にリンク・セオリー・ホールディングスを完全子会社化。取得価格は185億4300万円、創業者の佐々木氏は約40億円(21.75%)を手にしました。これに伴い発生したのれんは145億300万円、6年間での均等償却を行うことを発表しました。またリンク・セオリー・ホールディングスのEVが約195億8900万円、EV/EVITDA倍率は5.9倍(2008年発表第10期有価証券報告書より)でした。

注:EVは取得価格+有利子負債(63億5800万円)−現金及び現金同等物の期末残高(53億1200万円)、EVITDAは営業利益(20億5600万円)+減価償却費(12億4400万円)から算出

図4

2010年、リンク・インターナショナルがリンク・セオリー・ホールディングスとリンク・セールスコーポレーションを買収し商号をリンク・セオリー・ジャパンに変更しました。結論から述べると買収後のセオリー事業は大幅に増収・増益を続けてきていました。唯一2015年に米国ラグジュアリー市場の不調による大幅な減益がみられましたが、翌年からはまた増益に転じています。(図4)

2017年8月期の有価証券報告書では米国のセオリーブランドが好調であったことに加え、セオリー事業から生まれたPLST(プラステ)ブランドの収益性が改善されたことが増収の要因としてあげられています。

また同時期の収益は、セオリー事業を含む4事業の収益の合計である「グローバルブランド事業」の収益が売上高1410億円(前年比+1.9%)、営業利益5億円となっています。

買収時のEVと買収後以降の累積当期純利益を比較すると、約152億4000万円の大きな隔たりがあります。しかしこの減益は一時的なものであり、今後のセオリー事業は再び成長していくことが予想されます。

ファーストリテイリングの海外売上の推移

ファーストリテイリング採用ホームページより引用https://www.fastretailing.com/employment/ja/about/business.htm

リンク・セオリー・ジャパン単体ではEVを回収できていませんが、海外ユニクロ事業とグローバルブランド事業を合わせた海外の売上比率がほぼ0であった2003年から、佐々木氏が逝去する2011年には売上比率は全体の27%に拡大しています。これには佐々木氏の豊富な海外経験による間接的シナジーが大きな影響を及ぼしたのではないか、と考えられます。

リンク・セオリー・ジャパン生みの親佐々木力氏の功績

ライター:豊福ジャン (M&Aクラウドリサーチャー)