content_pasteM&A考察

富士フィルム、1円のキャッシュアウトもなく米ゼロックスを買収


今回は富士フィルムがなぜ米ゼロックスを買収し、富士ゼロックスと経営統合することになったのか。また25億円ものアドバイザリー費用による買収が、どのような買収スキームで行われようとしているのかを紹介します。

富士ゼロックスは合弁会社として生まれた

1962年、富士ゼロックス株式会社は富士写真フィルム株式会社※1と米ゼロックス社の子会社・イギリス法人ランク・ゼロックス※2との間で合弁会社として設立しました。社長には当時富士フィルム第3第社長であった小林節太郎氏が就任しました。

1990年、ゼロックス・リミテッドからオーストラリア・ニュージーランド・シンガポール・マレーシアの経営権を取得、その後もアジアでの事業拡大を推進していました。

※1.富士写真フィルム株式会社は現在の富士フィルムホールディングス

※2.ランク・ゼロックス社は現在のゼロックス・リミテッド

米ゼロックスの大幅な業績の低下

引用:Xerox Annual Report 2016よりhttps://www.xerox.com/annual-report-2016/financial-highlights.html

米ゼロックスは1906年に創業して以来コピー機で世界をリードし続けていましたが、近年のペーパーレス化によるコピー機の需要低下から業績は悪化していました。

図は、米ゼロックスの2014年から2016年の業績推移を表す財務指標です。Net Income from Continuing Operations(継続事業の税引後当期純利益)は2014年の11億4800万米ドルから2016年には9億2100万米ドルと、約2億2700万米ドルも減益しています。またNet Cash from Operating Activities-Continuing Operations(継続事業の事業活動によるキャッシュフロー)は2014年の13億3300万米ドルから2016年には10億1800万米ドルと約3億1700万米ドルの減少が見られます。これらの指標から、米ゼロックスが経営戦略において大きな見直しを迫られていたことが今回の買収に影響していると考えられます。

富士ゼロックスと米ゼロックスの経営統合

現在の富士ゼロックスの株式は富士フィルムが75%、米ゼロックスが25%保有しています。今回の買収のスキームがどのように行われようとしているのかを説明します。

図①

まず富士ゼロックスが金融機関から6710億円の借入(図①)

図②

富士フィルムの保有する富士ゼロックス株式75%を自己株式として取得、富士フィルムは対価として6710億円を受け取ります。これにより米ゼロックスの出資比率は25%から100%になります。(図②)

図③

次に、米ゼロックスは既存株主に25億米ドルの特別配当を実施します。(図③)

図④

そして富士フィルムは米ゼロックスの第三者割当増資により発行する新株を61億米ドル(約6710億円)で買取り、50.1%出資し子会社化(図④)

米ゼロックス改め富士ゼロックスへ

引用:富士フィルムホールディングス適時開示よりhttps://www.fujifilmholdings.com/ja/investors/pdf/other/ff_irnews_20180131_002j.pdf

さらに社名を米ゼロックスから「富士ゼロックス(英語名:Fuji Xerox)」(以下「新富士ゼロックス」という)に変更するというものです。米ゼロックスが特別配当をする理由として、特に大株主に今回の買収を認めてもらうという考えがあります。またニューヨーク証券取引所の上場は維持する考えと発表されました。

この買収スキームは富士フィルムが1円も外部に資金を流出しない形になっており、米ゼロックスの大株主であるアイカーン氏は公開書簡でこの買収スキームを批判しています(2018年2月12日現在)。さらに特別配当に関しても『我々の資産から支払われる』と述べ、米ゼロックスの資産を取り崩すスキームに関しても苦言を呈しています。また富士フィルムはこの経営統合が米ゼロックスと友好的に取締役会で承認したものと発表していますが、米ゼロックスの第三者割当増資には株主総会における承認などが必要であるということを発表しています。

新富士ゼロックスのPMI、従業員1万人の削減

新富士ゼロックスの会長には現在の富士フィルム会長兼CEO及び富士ゼロックス会長である、古森重隆氏が兼務予定であるとし、新富士ゼロックスのCEOには現米ゼロックスCEOであるジェフ・ヤコブソン氏が就任予定と発表されています。

新富士ゼロックスは経営統合後の戦略として、全世界統一でのマーケティング戦略を展開すると発表しています。今回の統合でゼロックスが世界で統一されることにより、世界で効率的な営業、競争力のあるサービス・製品を提供できるとしています。技術面においては、富士フィルムのもつ画像処理技術や写真、インクジェット、フォトリソグラフィ等の技術と新富士ゼロックスによるドキュメント関連AI技術の融合により、さらなる生産性の向上を提供すると発表されています。

合わせて富士ゼロックスは、国内外で従業員の2割にあたる1万人を削減し、米ゼロックスと重複する開発部署や生産設備、物流網の解消をする構造改革策を発表しており、人員削減に関して吉澤勝取締役は会見で「過半は海外を考えている」とコメントしていることから、海外の工場や販売網を中心に再編することが考えられています。

今回の買収は、1990年代からの米セブン本社の業績悪化による経営難をセブンイレブン・ジャパンの本社買収によって立て直した、という事例のように、今回のゼロックスの買収もアメリカで経営に行き詰まった企業を日本企業が立て直すという構図が当てはまります。今後もこのような買収・PMIが成功し日本の経営が評価されることによって、日本企業によるクロスボーダーM&Aが加速する可能性も考えられます。

ライター:M&Aクラウドリサーチャー 豊福ジャン