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東証マザーズ上場を目指すスタートアップに向けて(前半)


多くのスタートアップにとって上場は大きな目標であることと思う。資金調達の円滑化、事業規模の拡大など、経営者は様々な恩恵を享受できる。もちろん上場は各々の企業が掲げるミッションの達成の一通過点であることには間違いないが、上場の可否がこれからとる方針を決定する大きな分岐点となることは間違いない。本稿では、2017年下半期において東証マザーズに上場を果たした新興企業の利益分析と上場時の時価総額、成長率を分析する。日本経済で奮闘するスタートアップにとってマザーズ上場という目的地に向かう、精度の良い羅針盤となることを意図して本記事を作成した。

 

経常利益の分析

経常利益に関して最も多くの利益を上げたのはHANA Tour Japanであった。同社は2005年9月に設立され、訪日外国人向けツアーの地上手配を中心とする旅行事業を行なっている。貸切バスの運用が主要業務であるが、子会社が免税販売店事業やホテル事業を行なっていて、統合的な観光事業を展開している。2015年以降子会社の売り上げが順調に伸び、同社のグループ全体の安定した増益増収を支えている。同社の成長性に関しては、増加する中国や東南アジアの訪日旅行者に向けた丁寧なサービス・情報提供を行う予定であり、今後市場規模は拡大していくものと思われる。

次点に位置するのはロードスターキャピタルである。同社は中規模オフィスビル等への不動産自己投資、不動産賃貸、不動産特化を主要事業として扱っていて、2012年3月に創業。不動産テックを銘打ち、ITと不動産業界のプロが立ち上げた同社は、国内外で拡大するクラウドファンディング市場に注目し、都内割安オフィスビルへの投資を仲介している。同社の特徴は貸付型の投資形態に加えて、将来的にAIによるリスク分析を取り入れたエクイティ型投資を実現しようとしている点にあり、これにより国内J-REAT市場のニッチな領域を狙う方針である。

三位に位置するウェルビーは就労移行支援、児童発達支援、放課後デイサービス等の障害福祉サービス事業を行う会社であり、2011年12月に設立された。同社による支援を受けた利用者は高い職場定着率を記録しており、実績は着実に積み重なっていると言える。さらに、障害者の実雇用率は現状2%弱に止まっているが、今年から法定雇用率の引き上げが実施され、2020年にはさらなる引き上げが予定されていることから同社のサービス利用者は増加する見込みである。

上位三者以降の企業を見てみると、不動産事業や、高齢者向けサービス、IT企業が目立つ。高い固定費を抱えていても安定した収益を獲得している会社が利益額の上位に位置付けているようだ。

下位の企業に目を向けてみると、最下位のマネーフォワードが突出して高い損失を経常していることがうかがえる。2012年5月に設立され、自動家計簿・資産管理サービス『マネーフォワード』の提供を行う同社の説明資料によれば、調達資金を利用して先行投資によるプロモーションを積極的に行ったようである。事実、上場前二期の決算においては広告費を除いた営業損失は着実に減少しており(-558百万円(2015)→-287百万円(2016))、売上総利益(11百万円(2015)→808百万円(2016))、売上総利益率(3%(2015)→52%(2016))ともに上昇している。

またFringe 81は2012年11月に設立され、インターネット広告配信プラットフォーム等のサービス開発から広告主のマーケティング支援サービスの提供、並びにHR Tech領域におけるウェブサービスの提供を行っていて、同社は高収益化のための急速な業態転換を行ったとしている。結果として、2016年には5000万円あった損失をなくし、翌年には8000万円の黒字を計上して上場を果たしている。2006年10月創業の、クラウドコンピューティング形式で提供されるグループウェアを含むSFAやCRMを主要事業としているナレッジスイートも2016年まで続いた投資フェーズが終了し、収益段階に突入した今年、1.5億円の経常利益を計上して上場している。

 経常利益額の平均は2億633万円で中央値は1億5775万円となっていることから、上位少数の企業が高収益をあげているようである。この傾向はマネーフォワードの存在を考えると全体としてより顕著であると言える。

当期純利益の分析

次にあげる当期純利益では先の経常利益で見た顔ぶれが再び登場する。上位の三番目に位置するテックポイント・インクは2012年4月に設立され、監視カメラ、車載カメラ向け半導体の開発・製造・販売を主要事業としている会社である。同社は中国の主要メーカーと提携し、拡大する中国市場に向けた安定的な供給を行なっている。監視カメラの市場は世界的にも拡大しており、自動運転技術への期待から車載カメラの需要も上昇傾向である。

さらに下位の方に目を向けると、2002年3月に設立されたLTSが新しくランキングに乗っている。RPA/AI/ビジネスプロセスの可視化等を活用し、企業変革と働き方改革を主要事業としている会社である。同社のビジネスモデルは人材紹介を行うプラットフォーム事業と、業務改善のコンサルティング、マネジメントを行うプロフェッショナルサービス事業に大きく二分される。前者は継続的に収益をあげてきたが、前年度決算期を境に後者の収益化が成功したことから上場当期に大幅な黒字化に成功している。

当期純利益も経常利益と同様にIT企業がランキングの上位に散見された。そのほかには大きな固定資産を抱える企業が位置しており、線形ではあるものの安定した収益の増加から上場に至った企業の存在が目立つ。

売上成長率の分析

売上成長率では上述した2つの項目とは違う会社が登場し、一部正反対の順位に位置した会社も出現した。最上位のジーニーは2010年4月に設立されていて、インターネットメディアの広告収益最大化プラットフォーム「GenieeSSP」を主軸としたアドテクノロジー事業を行う企業である。同社は四年前に海外に進出し、その後ソフトバンクと業務提携を実施。以降、事業規模拡大とともに売り上げが急速に上昇している。現在もインターネット広告市場は年率10%を超える速さで成長しており、同社はさらに海外事業の拡大も継続しアジアNo. 1のアドテクノロジー企業を目指していることから今後の成長も必然であることが予測できる。

次のマネーフォワードは前述した利益額の分析においては芳しくなかったが、高い成長率を誇っている。同社のプロモーション投資による成長が見込まれての上場という説明がここでしっかりと裏付けられている。

三位のGame withは2013年6月に設立されていて、ゲームの関する総合メディア・コミュニティの開発・運営を手がけている。一位のジーニーと同様にインターネット広告市場対象とした事業を行なっており、ゲームの攻略サイトの運営から収益を爆発的に増加させた。同社が対象とするスマートフォン広告市場は年率20%の成長を見込んでいて、今後は有料会員向けサービスなども開始し、収益構造を充実させる予定である。

今度は変わって、上記2つの項目で最上位に位置していたHANA Tour Japan が最下位となった。主要事業である貸切バスの運用は同社の収益基盤であり、今後は稼働率の平準化、最適化に務めるとしている。同社単体の収益を分析すると上のようになるが、子会社の事業拡大で売り上げを伸ばしているようである。

次のLTSは上述したように、上場前期にプラットフォーム事業の収益化に成功していることから、今後は売り上げが急速に成長するものと思われる。

最後のトランザスはIoT端末や機器装置の製造販売及びシステム・サービスの提供、並びに業務システムの受託等を事業として展開していて、1995年1月に設立された。上場の三期前までは順調に増収していたが、直前二期で売り上げが停滞した。今後は新しく始まった、カスタマイズできるウェアラブル端末の製造請負から増収が見込まれる。

成長率の全体を概観してみても、マネーフォワード(249%)、UUUM(150%)やWantedly(86%)などIT業界の高成長がみて取れる。

設立年数の分析

上場までに要した年数は売り上げ成長率と若干の正の相関が見られ、ここでもインターネット関係の事業を扱う企業が上位に位置し、情報ではなくモノを主要製品として扱う企業は長い年数をかけて上場していることがわかる。首位のGame withはインターネットとスマホアプリ双方の興隆時期に合わせて事業を展開し、高い成長率とともに素早く上場した。

次のUUUMは2013年6月に設立され、Youtuberを中心とするクリエイターのマネジメント業務、クリエイターに関連するプロモーション提案やグッズ販売、動画コンテンツの制作等を行なっている。自社アプリを通じた作成動画、もしくは同社に所属するYoutuberの投稿動画の再生回数は一年ごとに倍増しており、高い成長率を支えている。同社は動画広告のアドセンス収入を収益基盤としていて、動画広告市場は現在約800億円程度であるが、今後五年をかけて約三倍に拡大する見込みである。

三位のMS&Consultingは2013年3月に創業した。顧客満足度・従業員満足度向上のためのリサーチ業務及び経営コンサルティングに関する業務を主に行なっている。同社の売り上げ成長率は7%と目立った値ではないが、創業当初から営業利益が三億円を超えていて、安定して高い収益を上げている。

1994年4月に設立されたユニフォームネクトが上場までの期間が最長という結果になった。同社は作業着や制服の受注、販売を行なっている。直近6年までは創業県内での営業を続けていたが、通信販売を開始しEコマース市場に進出してから急速に売り上げを拡大させた。

二位のトランザスは先の売上成長率で紹介した。2014年までは各種ハードウェアを製造していたが、当年以降IT業務支援サービスの譲受を開始し、売り上げが急増している。

三位の一家ダイニングプロジェクトは居酒屋「屋台や博多劇場」「こだわりもん一家」等の運営、ブライダル事業を行なっていて、1997年10月に設立された。同社の飲食店事業は創業以来安定して成長してきたが、2012年に開始したブライダル事業で継続した高収益を上げており、上場にこぎつけた。

平均値、中央値ともに10年前後となっており、下位三社の存在を考えると大半の企業が設立から10年以内に上場していることになる。

ライター:M&Aクラウドリサーチャー 市瀬凛