content_pasteM&A考察

eBayによるPayPal買収を考察


1.案件概要

1-1.案件当事者

1-2.案件情報

1-3.eBay主な出来事

1-4.eBayの株価チャート

1. M&A発表日:2002年7月8日|完了日2002年10月4日
2. 2015年にPayPalとのSplit-upを発表: CNNによるとオンライン決済の直接的なコントロールを取るためにとった経営戦略と見られる
3. 2018年2月前半にPayPalのライバル会社で、オランダに本部を構えるAdyenとの提携により投資家がPayPalの方に流れたと見られる

2.eBayによる買収の狙い

21世紀初期にオンラインショッピングが流行り始めた頃、eBayが経営戦略として掲げたのが世界一効率的で品揃えの良いECとしてのマーケットシェアを確保することであった。eBayの売上、並びに成長率を伸ばしていく上にあったって、まず経営者が目をつけたのは買い手と売り手のニーズを把握し、そのギャップを埋めることであった。時間のかかる従来の決済方法は売掛金回収プロセスの効率が悪かったためそこに着目し、改善策としてオンライン決済サービスの導入を決めたのである。

eBayによるユーザーのニーズ分析

利便性の追求以外においても、eBayの経営戦略であった顧客の個人情報の保護、コストカットという面においてPayPalは補完的な経営基盤があった。また、当時のオンライン決済に対する消費者の負のスティグマを払拭する事が最大の課題であったため、数あるオンライン決済サービス業界の中でも銀行口座やクレジットカードなどの情報を他者との共有を必要とせず、電子メールとインターネットのみを使用して決済を行えるPayPalを被買収会社として選んだと考えられる。

PayPal買収後の売上高の推移とその内訳

グラフで見てもわかるように過去17年間で事業ポートフォリオが大幅に移り変わっているが、一つこのグラフを見る上で理解しておきたいのが、それぞれのセグメントが何を示しているかである。まず2015年にPayPalとeBayが分離されて以来、企業体系としてMarketplace (www.ebay.com)、Classifieds (Kijiji)とStubHubに分けられ簡素化されている。(2014年まではClassifiedsそしてStubHubどちらもMarketplaceの中に含まれていた。)

次にオムニチャネル戦略として買収したGSI CommerceはeBay Enterpriseとして分けられている。ちなみに2011年に2400億円で買収したが、あまり役に立たなかったのか3年後には半分以下の925億円で売却している。

そして最後にPaymentsであるがこれは主にPayPalのことを指している。次の業績とKPIの所で詳しく話すが、2002年10月にオンライン決済サービスを導入して以来、着々と売上高を増やし、2002年から2003年には売上115%増、また2003年から2004年には154%増とeBayの主要収益源として地位を確保し2社が分裂する前年にはeBayの売上内訳において50%近く占めている。(以下の表はPayPalのeBayにおける売上内訳を表している)

eBayにおけるPayPalの売上内訳推移

ちなみに13年間のビジネスの連結が解消された2015年には7ヶ月間に渡って、あたかもオンラインビジネス業界きってのおしどり夫婦が別れるかのように「breakup (離婚)」という報道がされていた。PayPalを手放すことに決めた理由に関しては本題と外れるので省略するが、詳細はこちらに掲載されている

3. 業績とKPI

PayPalを買収することにより従来の決済方法と比べて格段に迅速かつ簡単で安全な支払い方法を顧客に提供できるようになった事がまず第一の経営陣としての目標達成であり買収成功であったと言える。そのほかにもPayPalは2002年時点ですでに38カ国もの広いビジネスラインを展開しており、eBayのグローバル規模でのシェアの拡大の主な一因を担ったと言える。(2014年の時点では世界204カ国でPayPalが使えるようになっている。)

以下経済効果を示す。

3-1. キャッシュ・フロー

PayPalの買収により2002年のeBayの純現金収支が前年に比べて211%、また2003年には124%増加している。

3-2 EBITDA マージン

3-3. 利益率推移

3-4. 総資産・株主資本比率推移

4. 買収価格

買収価格についてだが、結果からいうと企業の成長率に見合った金額の投資であった。プレスリリースによると当時のPayPalの企業価値(EV)は1200 -1300億円であり、15%のプレミアムを上乗せした1500億円で買収した。これは当時TMT業界のM&Aにおける平均プレミアムが30%であったことから考えると比較的安く買えたのではないかと思う。(もちろん、PayPalの投資家達からは少なからず批判の声があった。)

ROEやROAの定量的な数値を見てみても同様な事が言える。まずROEであるが、買収前年度は6.33%であったのに対し、買収した年より7.03% (2002)、9.02% (2003)、11.57% (2004)、10.77% (2005)、10.32% (2006)とリーマン・ショックの前年まで高めることに成功している。ROAに関しては5.39%が買収前年度であったのに対し6.19% (2002)、 7.59% (2003)、 9.74% (2004)、 9.18% (2005)、 8.34% (2006)とこちらも順調に上がっている。基本的に米国ではROEは10%、そしてROAが5%を超えていると優良会社と見なされており、どちらの数値を見ても、財務指数が向上している。このことからPayPalの買収によって経営の効率化が図られた事がわかる。

5.PayPalからの視点

企業戦略としての成功の定義はどれだけ投資額対してリターンを返せるかである。今回の買収に関してはPayPalののうちの一人としてElon Musk (Tesla, CEO)があげられるが、売却後のPayPalの成長とeBayとの相性の良さを見るとこのM&AはPayPalの観点からしても成功であった事が伺える。

定量的なデータであげると、買収完了後3ヶ月間で、PayPalを通じてのオンライン決済は2100億円に達しておりその主な取引はeBay間を通じてであると有価証券報告書には記載されている。また2002年には23万人がPayPalに登録しているのだが、これは2001年に比べると10万人増であり、このeBayとPayPal間の相乗効果がいかにすごいことであったかを示している。

また、今でこそ、オンライン決済サービス業界は急速な成長を遂げているが、当時のPayPalはスタートアップ企業であり、まだまだ新しい業界であったため、営業利益は思うようには伸びておらず、財務情勢も安定していなかった。だが、eBayの子会社として事業を行うことにより売上シナジーが生まれたと考えられる。(実際、eBayの純現金収支が前年に比べて211%増と言う結果を出している。)

6.M&Aの成否について

損益分岐点

上記は有価証券報告書を元にeBay全体の純現金収支を割り出し、それを2002年の正味現在価値に換算し、いつ頃買収金額を回収できたかを表している。WACCは14%(2002年当時のもの)と9.3% (2018年現在)のものを使ったがどちらにしても3年以内には買収金額を回収できていることになる。(14%を使った場合: 2.55年、9.3%を使った場合: 2.47年)

セグメントごとの営業活動詳細に関しては記載されていなかったので、Payments (PayPal)の営業利益からの算出になるが、こちらを見ても3年以内に買収金額が回収されていることを表している。

PayPal 当時の企業価値 (2002年7月15日)

(当時為替レート1 USD = 121円、USD in millions except for 市場株価、株式総数)

※PayPalが2002年2月にIPOした当初の株価は$13であったが、10月に買収された時にはプレミアムも含めた$23で取引された。その後eBayによって買収されたことにより上場を取り止めている。2002年のPayPalの市場株価に関するデータは少なく、その為上記の市場株価並びに株価時価総額は当時取引された株価からプレミアムを引いた価格で割り出している。

6-1.PayPal財務状況 (2002年: 売却前)

損益計算書

6-2.バランスシート

6-3.キャッシュフロー計算書

参考: PayPalの損益計算書 (2014年-17年: eBayからの独立前後)

※2002年時と2014年以降の単位がthousandsからmillionsに変わっているに注意

のれん (USD in thousands)

上の表から見てもわかるようにPayPalののれん代はかなり大きい。この内訳としてはテクノロジー (780万円)、ネームバリュー(63.6億円)、そして顧客リスト(196.6億円)と記されている。

7.PayPalの買収による間接的効果

M&Aが経営戦略として盛んに行われるようになった今でさえ70-90%の買収戦略は失敗と言われている。その中でPayPalとeBayのM&Aが成功と言われる所以は何だろうか。その一つ理由として2社間でギブアンドテイクによる相乗効果があったのではないかと考えた。今回は1.) eBayがPayPal買収により習得したケイパビリィティ、2.)PayPalがeBayによってもたらされた施策に分けて述べてみよう思う。

7-1.eBayがPayPal買収により習得したケイパビリィティ

1.リソース
上記で述べたようにeBayによって買収されることによりPayPalは10万人の新規ユーザーを獲得するが、買収される前年にはすでに38カ国でのオペレーションと23万人のユーザーベースを持っていた。eBayは以前、VisaやWels Fargoなどからの融資を受けたBillpointというオンライン決済サービスを独自で開発していたのだが、PayPalの顧客層とは程遠く、もしPayPalの競合として張り合うためには独自の研究費そして顧客獲得のためのマーケティングなど更なる事業投資が必要であった。その事実を踏まえると今回のリソース獲得により研究開発資金及びマーケティング費用が大幅にカットできたと言える。

2.顧客に対する付加価値の追加
迅速かつ簡単で安全な支払い方法によってオンラインショッピングが簡易化されたことにより、eBayをプラットホームとしたP2P (Peer-to-peer)というビジネスモデルが確立された。ユーザー間での売買が盛んに行われることによって、需要(買い手: 豊富なセレクション、利便性など、売り手: 幅広い市場、流通経費削減など)が満たされ、安定的に売上の向上をさせることができたと思われる。

7-2.eBay買収を受けてPayPalがとった施策

1.PayPalの信頼性を上げるための施策

オンラインギャンブルに対するサービスの停止::PayPalは以前オンラインギャンブルのお金の取引手段としての使用を許可していたが、Missouri東部の法務長官から指摘を受けたこと、そして消費者からのオンライン決済に対する信頼性が今後のeBayの企業成長として必要不可欠であったため、今後トラブルが起こることを懸念し買収する際にサービスの停止に合意させる施策をとった。

2.eBay以外での顧客層の獲得
eBayはPayPal買収後もOff-eBay businessにおいてのビジネスを許容している。つまり、完全にeBay専属の決済サービスとして取り込んでしまうのではなく、あくまで独立した子会社という扱いをするという方向性を示している。eBayの狙いとしては、顧客に他のビジネスでPayPalを使ってもらう事により、eBay利用者とはまた違った新規層の顧客の獲得をしようという背景があったと推定される。

参考: eBayとPayPalスピンオフ後の株価の変動

Spin-offした当時のPayPalの時価総額は3.9兆円と言われている。投資家からの観点からするとeBayが2002年に1500憶円でPayPalを買収したことから投資収益率(平均年率)27.42%ということになる。またeBayが買収してからSpin-offまでのキャッシュフローのIRRを計算してみると38%であった。これらの事実は16年たった今でも、最も成功したM&AにeBayとPayPalの買収案件が数えられる所以であろう。

余談ではあるが、PayPalは銀行とは違い、第三者としての決済プロセスを担っている。今でこそe-transfer(メールで直接お金のやり取りをすること)が当たり前になっているが、もし当時の規則変更で、Visa, Mastercard, そして銀行との提携停止を受けていたら、PayPalの事業自体が成り立たなくなってしまうリスクがあった。その中での買収に踏みだしたeBayの決断は筆者としては尊敬に値するし、当時の経営者に直接インタビューしてみたいと思う。『High Risk, High Return』という言葉があるが、この案件はまさしく言葉の通りであったのではないだろうか。

その他のeBayによるM&A アクティビティ

• 1998年 Up4Sale–個人間のオンライントレーディングウェブサイト
• 2000年 Half.com – 映画、本、ゲームなど専門のオンライン販売サイト
• 2002年 PayPal
• 2004年 Rent.com – 賃貸検索サイト (2012年に売却)
• 2005年 Gumtree – クラシファイドサイト (Kijijiの規模拡大のため)
• 2005年 Skype – インターネットコミュニケーション
• 2007年 StubHub – チケット売買サイト
• 2010年 Milo.com – プロダクトサーチエンジン
• 2010年 GSI Commerce – 販売者向けのオムニチャネル (2015年に売却)
• 2011年 Magento – ソフトウェア
• 2011年 Zong – mobileベースのオンライン決済
• 2013年 Braintree – オンライン決済サイト (PayPal規模拡大のため)
• 2018年 Ayden – オンライン決済 (PayPalの代わり/Partnership)

<参考資料>
– PayPal プレスリリース
– Speeda
– 10-K (eBay 2002-2017; PayPal 2002, 2017)
– Yahoo Finance
– eBay Website
– The New York Times