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M&A数と時価総額に相関はあるのか?時価総額TOP10企業で検証


時価総額(日本円)は2018年8月3日時点の1ドル111.25円で換算

「企業のM&A数と時価総額には相関があるのではないか」

この仮説の検証を目的に、現在の世界時価総額TOP10企業を1位から10位まで、それぞれのM&A数やM&A戦略を考察したうえで、TOP10企業のM&A数と時価総額の相関について検証していきます。

1位.Apple 時価総額:1兆72億ドル(112兆843億円)

Appleの2017年度決算までのM&A案件数はおよそ112社となっています。Appleは報道機関が見つけない限り買収の大半を明らかにしないため、実際の買収はさらに多いのでは、と考えられています。

Appleの買収戦略は売上やシェア目的というよりもプロダクト強化が中心にあります。また買収対象となる企業は比較的小さい企業が多いです。これは技術や人材獲得の意味合いが強いと考えられます。

買収ペースとしてはスティーブ・ジョブズCEO時代の14年間で31件のM&Aを実施したのに対し、買収を積極的に行うことを公言している後任のティム・クックCEOは、就任してからの6年間ですでに46社の買収を行なっています。2017年の買収は機械学習やAR/VR関連が多い印象となっています。

2位.Amazon.com 時価総額:8,892億ドル(98兆9,235億円)

Amazonは1994年に創業してから2017年までに約79社を買収しています。Amazonの買収傾向は大きく3つの時期に分けることができます。

1つ目の時期は1998年から2000年までの積極買収期を指しています。この時期の買収では海外への進出、『本』以外の領域への進出を行いました。イギリスの「bookpages」やドイツの「Telebuch.de」などを買収して海外進出を行い、本以外の領域として薬、食料品、スポーツ用品、工具、ペットといった多方面の企業を買収しました。しかし進出した新たなカテゴリのうちスポーツ用品やペットなどは失敗に終わっています。

2つ目の時期は2001年から2007年の買収慎重期です。この時期にはドットコムバブルの崩壊もあり買収を控えるようになりました。それと同時に自社で1から作り上げる文化が生まれました。

最後は2008年から現在までの積極買収期です。近年のAmazonの買収指針としてはインフラ整備とデジタルコンテンツの強化があげられます。インフラ整備の面では物流システムのノウハウを靴のECである「Zappos」やベビー用品のECである「Quidsi」、そしてこれらECシステムを構築している「KIVA Systems」を買収することで取得しています。デジタルコンテンツ強化の面ではゲーム、音楽、オーディオブック、教育、漫画などのコンテンツ企業を買収しています。さらにKindle周辺の技術強化も買収により行なっています。

昨年には最高額の約137億ドルで「Whole Foods」の買収を実施しており、リアル小売業にも参入し、ドローンを使った無人宅配を行うのではないかと大きく注目されています。

3位.Microsoft 時価総額:8,300億ドル(92兆3,375億円)

MicrosoftはWindowsやOfficeなどのソフトウェアの開発・販売を行なっているIT企業です。2014年2月にCEOがスティーブ・バルマー氏からサティア・ナデラ氏に変わって以来、大きく業績を好転させることに成功しています。現CEOの元では特にクラウド事業とSurface(タブレット)事業の強化を行なっています。クラウド事業はパブリッククラウドの「Azure」が大きく成長をしています。Surface事業はAppleのiPadに比べると小さい売上ですがそれでもかなりの成長を遂げています。

Microsoftは1975年に創業してから現在までに209社ものM&Aを行なっています。直近10年では年平均8社行なっています。2018年はすでに9社の買収を行なっており、代表的なM&Aに6月に行われた「GitHub」の買収があります。GitHubは2,800万人以上の開発者が参加するオープンソースソフトウェアのプラットフォームです。MicrosoftはGitHubの株式をMicrosoft株75億ドル相当で支払い、年内にクローズさせると発表しました。この買収ではMicrosoftが強化しているAzureのクラウドをさらに成長させる意図があると考えられます。

サティア・ナデラCEOは以前までMicrosoftが敵視してきたクラウドやオープンソースに舵を切りました。そしてGitHubのみならずクラウドやモバイルのサービスを対象にしたソフトウェア会社の買収を積極的に行うなど、Microsoft復活の原動力となっています。

4位.Alphabet(Google) 時価総額:7,982億ドル(88兆7,998億円)

AlphabetはGoogleの持株会社です(以下Google)。Googleはこれまで積極的にM&Aを行なってきており、これまで買収してきた企業の数は227社、そのうちテック系企業は207社に及びます。テック系企業のうち買収金額の判明しているものが57社あり、その合計額は309億ドルになります。207社を合計した金額はおよそ807億ドルになると考えられています。

Googleの買収ペースは大きく2つに分けることができ、2009年と2010年が大きな分かれ目となっています。まず前半の2001年から2009年までは、唯一2007年に15社を買収をした以外、Googleは毎年5社前後しか買収を行なっていませんでした。しかし2010年以降は年平均15社、多い年には年30社もの買収を行っています。2010年、2011年、2014年は特に多くの買収を行っており、それぞれ26社、28社、31社買収しています。

M&Aの対象となる企業は2014年が分かれ目の年となっています。2013年までは「DoubleClick」や「AdMob」などの広告関連企業や、「Youtube」、「Like.com」などのビジュアル検索といった現在のGoogleの事業を形作る企業の買収を行なっていました。2013年にこの傾向が一変し、「Shaft」などのロボット開発企業を買収しました。しかしShaftはのちに売却され、これらの買収を先導していたアンディ・ルービン氏がGoogleを去ってからはロボット関連の買収は行われなくなりました。そして2014年以降はユーザーインターフェースに関わる買収が積極的に行われています。2014年はAIやクラウド、2015年からはAR/VRなどの買収件数が大きく増えているのが特徴です。

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5位.Berkshire Hathaway 時価総額:7,093億ドル(78兆9,096億円)

Berkshire Hathawayは紡績工場でしたが、ウォーレン・バフェット氏が株を買い集めCEOになってからは投資会社へと変化を遂げました。Berkshire Hathawayは1972年からこれまでに合計54社を買収しており、現在67社もの子会社を保有しています。同社は当初、バリュー投資の手法に基づいて上場株に少数株主として投資する方法を取っていました。バフェットは多岐にわたる事業を子会社化した企業で行なっており、代表的なものに保険事業、エネルギー事業、小売・サービス事業などがあります。なかでも保険事業のビジネスはフロートと呼ばれる保険料から準備金を差し引いた額が安定的に入るため、その分を投資に当てるというのがBerkshire Hathawayのビジネスモデルとなっています。

Berkshire Hathawayの投資先上場企業として主要なものには、ウェルズファーゴ、コカコーラ、アメリカンエキスプレス、IBM、ウォルマート、P&G、エクソン・モービルなどがあります。

6位.Alibaba Group Holding 時価総額:4,651億ドル(51兆7,424億円)

Alibabaは1999年に創業して以来、現在まで18社M&Aをしており、IPOの2010年以前に3社を、IPO後15社の買収を行なっています。買収してきた企業の特徴はEコマース関連企業が多くなっており、他にはアプリ分析プラットフォーム、クラウドストレージサービス、モバイルブラウザ、デジタル広告などの企業を買収してきました。

Alibabaの主要な事業としては中国最大のBtoCマーケットプレイス「Taobao.com」や中国BtoCオンラインショッピングモール「Tmall.com」などがあります。また子会社のAnt Financialが保有する「アリペイ」は中国最大のデジタルモバイル決済を担っています。

近年の代表的なM&Aに『東南アジア版アマゾン』と呼ばれ、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピンの6ヶ国で事業を展開している「Lazada(ラザダ)」があります。AlibabaはLazadaを過去最高となる10億ドルで買収をし、東南アジアにおけるEコマース事業強化を行なっています。

7位.Facebook 時価総額:4,287億ドル(47兆6,929億円)

Facebookは2018年8月までに合計77社をM&Aにより取得しています。株式公開の2012年5月18日までには、Instagramを含む29社を買収しており、株式公開直前の5月だけで3件の買収を行いました。さらに株式公開日にはモバイルソーシャルギフトサービスを手がける「Karma」の買収を発表しました。FacebookのM&A戦略は大きく上場前後で分けることができます。

上場以前の初期の買収戦略としては「優秀な人材の獲得」を目的としていました。2009年に買収した「FriendFeed」にはGmail開発責任者のポール・ブックヘイト氏や、GoogleMap開発者であり、のちにFacebookCTOとなるブレット・テイラー氏がいました。彼らのような優秀な人材をFacebookの機能開発に投入していました。上場直前に評価額10億ドルで買収を決めたInstagramは「人」ではなく「サービス」の獲得を目的に行われました。

上場後の買収戦略としては「モバイルファースト」があげられ、モバイル関連の買収が上場前の13.7%に対して上場後42.3%と大きく増加しています。2014年2月には最高額の190億ドルでスマホ向けメッセージサービス「WhatsApp」を、翌月に拡張現実のハードウェア・メーカー「OculasVR」を20億ドルで買収しました。上場後のFacebookの買収にはFacebookから離れつつある10代を中心とした若いユーザーを取り囲むためのサービス獲得と、AIやVRといった次世代テクノロジー企業の獲得が両軸として行われています。

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8位.Tencent Holdings 時価総額:4,265億ドル(47兆4,481億円)

Tencentは1998年に創業し現在まで合計11社をM&Aにより取得しています。Tencentは中国インターネットサービス大手としてインターネット・メッセンジャー、SNS、ウェブポータル、Eコマース、オンラインゲームなどの事業を展開しています。その中でも中心となる事業がメッセージ・アプリ「QQ」と「WeChat」です。特にPCからモバイルへの移行が進んでからはWeChatが代表的な事業となっており、2018年3月時点でのユーザー数は10億人となっています。これはアメリカFacebook傘下「WhatsApp」の15億人に継ぐユーザー数となっています。

Tencentは直近5年間で総額625億ドルを企業買収に使用しています。2016年度の投資額は213億ドルであり、同年の利益水準の97%を投資に向けています。Tencentの代表的なM&Aとしては2016年6月に86億ドルで買収した「Supercell」があります。Supercellはフィンランドのゲーム会社でありSoftBankの子会社でした。

9位.JPMorgan Chase&Co 時価総額:3,935億ドル(43兆7,769億円)

JPMorgan Chase&Co(以下JPMorgan)はニューヨークに本社を持つ銀行持株会社です。商業銀行のJPMorgan Chase Bankや投資銀行であるJPMorganを子会社として保有しています。 JPMorganは1999年以来現在まで9件M&Aを行なっています。2004年に個人金融に強いBank One Corporationと合併することで米国トップクラスの金融グループとなりました。2008年5月にサブプライムローン問題で不安定であった当時米国5位のBear Stearnsを株式交換により1株わずか2ドル、総額2億3,600万ドルで買収しています。さらに同年9月経営不振に陥っていた当時米国最大の貯蓄貸付組合、Washington Mutualを19億ドルで買収しました。

JPMorganは世界の投資銀行ランキングでも安定的に上位を保っており、米国3大投資銀行の一つと言われています。2017年のM&Aアドバイザリー件数は328件、ディール総額は7,848億ドルとなっておりグローバル投資銀行のフィー収入では1位となっています。

10位.Johnson & Johnson 時価総額:3,539億ドル(39兆3,714億円)

Johnson & Johnson(以後J&J)は製薬、医療機器やヘルスケア用品を扱う製薬会社です。1886年に創業して以来、世界60ヶ国に275もの事業を展開、11万4,000人の従業員を抱えています。創業から現在まで合計24社をM&Aにより取得しており、世界的な製薬会社へと成長しています。2017年にはJ&Jで1件、J&J visionで2件の買収を行なっています。

2017年2月にJ&Jが行なったM&Aとして医薬業界の中でも巨額の300億ドルで買収したスイスの製薬会社「Actelion(アクテリオン)」があります。J&Jは関節リウマチ治療薬レミケードの売上が好調でしたが、製薬最大手のファイザーがインフレクトラというレミケードの後発版をアメリカで発売したことによる将来売上の懸念がありました。しかし今回の買収による医薬部門の強化でさらなる成長が期待されています。

同年9月にはJ&J visionが「TearScience」の買収を行なっています。TearScienceはドライアイ疾患の主要な原因であるマイボーム腺の診断とマイボーム腺機能不全治療のための医療機器メーカーです。この買収によって眼科領域においてグローバルでもトップ企業となりました。

同年10月にはJ&J visionが「Sightbox」の買収を行いました。Sightboxはアメリカのコンタクトレンズの装用者を対象に会員制の定期購入オンラインサービスを提供しています。Sightboxのサービスは、会員向けに年1回の眼科検診とコンタクトレンズ検査のスケジュールを決定するとともに1年分のコンタクトレンズを届けるというものです。今回の買収により患者と眼科医を繋げる支援をするとともに、この分野の成長を拡大していくことが期待されています。

Alphabet(Google)の圧倒的なM&A数

10社についてみていくと、時価総額TOP10企業のうち7社はIT企業であり、7社中5社が米国企業、2社は中国企業です。またM&A数から見ると10社のうち最もM&Aを行なっているのはGoogleの227社であり、最も少ないのはJPMorganの9社です。事業会社の中ではTencent Holdingsが11社と最も少なくなっています。

Googleは2010年以降、年平均15社を買収しているので、月平均では1.25社買収していることになります。一方TencentはM&Aこそ11社と少ないですが投資自体はかなり積極的にしていることで有名です。2018年7月までに304回のシードラウンドおよびシリーズでの投資をしており、そのうち175回はLead Investerとして投資しています。この投資実績は10社のうちダントツでトップであり、Tencentは買収による子会社化ではなく関連会社という形を取る戦略であることが伺えます。投資企業の多さはリスク分散効果を働かせる側面もあるのではないでしょうか。

M&A後のPMIが重要なのではないか

M&A件数と時価総額の相関を考えるとM&Aを最も行なった年の2~4年以内に時価総額は大きく上昇していることがわかります。特にGoogle、Microsoft、Alibabaは2年で時価総額が大きく上昇していました。Facebookが2012年に10件ものM&Aをしてから2年ほど時価総額が上昇しなかったことについては、FacebookによるM&Aが市場で懐疑的にみられていたことが関係していると思われます。上場直前に買収したInstagramは、当時売上が全くありませんでした。

今回M&Aと時価総額の相関を検証した結果、単にM&A数の多さと時価総額が関係しているということは考えにくいです。それよりもむしろM&A後のPMIに成功し、企業価値を高めることによって時価総額が増加、その効果が現れるのが平均して2~4年なのではないかと考えられます。

ライター:M&Aクラウドリサーチャー 豊福ジャン