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AmazonのM&A総まとめ、時価総額1兆ドルを突破したAmazonのM&A戦略とは


2018年9月4日、Amazon.com(以下Amazon)の時価総額が1兆ドル(111兆円)を突破しました。先月のAppleに続きアメリカ企業で1兆ドルに達した2社目の企業となりました。

同年6月28日には、Amazonが2013年創業のオンライン薬局を運営する「PillPack」を約10億ドル(約1100億円)で買収することが発表されました。Amazonは米国の巨大な処方薬市場に参入をし、さらなる経済圏の拡大を進めています。今回、時価総額1兆ドルを突破したタイミングでこれまでのAmazonについてM&Aという切り口から振り返りたいと思います。文章の最後にダウンロード資料として「Amazon.comのM&A総まとめシート」を掲載しています。

「Cadabra,Inc」として始まったAmazon.com

Amazonは1994年7月5日、ワシントン州シアトルで当時ウォール街のヘッジファンド「D.E. Dhaw & Co」で働いていたジェフ・ベゾス氏によって「Cadabra,Inc」という社名で創業されました。しかし「Cadabra」の発音は解剖用の死体を意味するCadaverに似ていることから最初の弁護士に変更を説得され、最終的に会社名をAmazon.comにしました。「Amazon.com」に変更する際「アマゾン」を選択した理由には、アマゾンという場所がエキゾチックで変わった場所であること、アルファベット順のAから始まるのが好ましいこと、またアマゾン川は世界最大の川であり、自らのオンラインストアを世界最大にしたいという考えとマッチした、といった理由があったそうです。

Yahooファイナンス調べ

2018年8月3日時点でAmazonの時価総額は8,892億ドル(98兆9,235億円)となっており、世界時価総額ランキングのなかではAppleに次ぐ2位となっています。Amazonの時価総額は近年右肩上がりで伸びており、9月4日に1兆ドルに達したことは上記でのべましたが、11日時点では1兆ドルを下回っています。

3つの時期に分けられるAmazonのM&A傾向

Amazonは1994年に創業してから2017年までに約79社を買収しています。Amazonの買収傾向は大きく3つの時期に分けることができます。

1つ目の時期1998年から2000年までは(第一次)積極買収期として考えることができます。この時期の買収では海外への進出、『本』以外の領域への進出を行いました。イギリスの「bookpages」やドイツの「Telebuch.de」などを買収して海外進出を行い、本以外の領域として薬、食料品、スポーツ用品、工具、ペットといった多方面の企業を買収しました。しかし進出した新たなカテゴリのうちスポーツ用品やペットなどは失敗に終わっています。

2つ目の時期は2001年から2007年の買収慎重期です。この時期にはドットコムバブルの崩壊もあり買収を控えるようになりました。それと同時に自社で1から作り上げる文化が確立しました。

2008年から現在までは(第二次)積極買収期にあたります。近年のAmazonの買収指針としてはインフラ整備とデジタルコンテンツの強化があげられます。インフラ整備の面では物流システムのノウハウを靴のECである「Zappos」やベビー用品のECである「Quidsi(買収以前はDiapers.com、以下Diapers.com)」、そしてこれらECシステムを構築している「KIVA Systems」を買収することで取得しています。デジタルコンテンツ強化の面ではゲーム、音楽、オーディオブック、教育、漫画などのコンテンツ企業を買収しています。さらにKindle周辺の技術強化も買収により行なっています。

出展:NewsPicks「Amazon買収戦略 20の事実」

『売る気がない企業も買収できる』AmazonのM&A戦略

Amazonはキャッシュフローの最大化を重視する「キャッシュフロー経営」で有名ですが、キャッシュを多く保有することによる恩恵をM&Aの際にも最大限に生かしています。一言で表すと『売る気のない企業を買収できる』というものです。この実例としてベビー用品専門の小売である「Diapers.com」の買収や靴のECサイト「Zappos」の買収が当てはまります。

ベビー用品の通販を行なっていたDiapers.comは発送時に使う箱のサイズを、注文ごとになるべく小さくすることで業績を伸ばしていました。これに目をつけたAmazonがDiapers.comを買収しようとしましたが、当初は拒否されていました。そこでAmazonは子供を持つ両親向けの新サービス「Amazon Mom」を開始、Diapers.comで45ドルのパンパースをAmazon Momでは39ドルで販売、さらにAmazon Momの会員になり定期おトク便を利用すると30ドル以下にもなるという徹底的な安値攻勢に持ち込むことで、Diapers.comに白旗をあげさせました。Amazon Mom自体は紙おむつを売るだけで3ヶ月で1億ドル以上の赤字でしたが、Amazonが豊富なキャッシュを持っていたためこのような買収戦略を取れたと考えられます。

Zapposも同様に買収提案を当初拒否されたため、Amazonが自社で靴のオンラインストア「Endless.com」を立ち上げ、Zapposより安い価格で販売することでZapposに白旗をあげさせ買収しました。Endless.comはZapposを買収するためだけに1億5,000万ドルを投じて開設されたというのは驚きです。

出展: Amazon 世界最先端の戦略がわかる(ダイヤモンド社)

Amazonは書籍の販売を始めた頃から、シェアの重要性を強く理解しています。だからこそ短期的に見れば売れば売るほど赤字が膨らむような戦略も積極的に行います。Amazonは競合を淘汰することで将来的に市場を独占できると考え積極的な価格競争を仕掛けていますが、この戦略はキャッシュフローが潤沢にある「キャッシュフロー経営」があってのものといえるでしょう。

ここからはAmazonの代表的な5つの買収を個別にみていきます。

Amazon.comのAlexa Internet買収

まずは1999年、Amazonによる「Alexa.com」を運営するAlexa Internetの買収です。買収価格はおよそ2億5,000万ドル(304億7,000万円)です。「Alexa」といえば2014年、AmazonがAIスピーカー『Amazon Echo』を販売しましたがAmazon Echoに搭載されている人工知能がAlexaと名付けられています。もともとこのAlexaという名前は1999年にAmazonが買収したAlexa.comが由来となっています。Alexa.comは全世界のWebサイトのアクセス状況を調べて訪問者の多いページをランキング形式で公表するサイトです。この会社がAlexaと社名を名付けた理由は古代最大にして最高の図書館と謳われているアレキサンドリア図書館のようなデジタルの図書館を作るというものでした。さらにAmazon EchoがAlexaという呼び名をつけた理由の一つに「日常生活であまり使われない単語」を選びたかったというのもあげられます。「Amazon」などの単語は普段の生活で使われることが多いため誤認識を回避する必要がありました。

Amazon.comのKivaSystems買収

2012年、Amazonは倉庫内のロボット配送などを行う「Kiva Systems」を7億7,500万ドル(639億1580万円)で買収しました。Kiva Systemsのロボットは、カメラとリアルタイム画像処理システムを搭載しており、物流センター内を自立して移動し、荷物を運ぶことができます。2009年に買収した靴のオンラインストア「Zappos」や、2010年に買収したベビー用品の小売である「Diapers.com」などもKiva Systemsのロボットを採用していました。Kiva Systemsの買収に伴って他者へのロボットの販売も中止しました。このKiva Systemsの導入により商品のピッキングプロセスが大幅に改善されています。Amazonによるとこれまで60~75分かかっていた作業がKiva Systemsの導入で15分で完了するようになりました。2015年に30,000のロボットを13の倉庫に導入したことで1倉庫あたり2,200万ドルの経費削減に繋がったそうです。

Amazon.comのTwitch買収

2014年、Amazonはゲームプレイ動画配信をおこなう「Twitch」を9億7,000万ドル(998億7799万円)で買収しました。Amazonによる買収後はAmazonプライム会員向けにサービスを提供する「Twitch Prime」として運営しています。日本では2017年12月よりこのTwitch Primeのサービス提供が始まっています。Twitchはあらゆるゲームの実況中継をライブストリーミングで配信するサービスですが、その視聴者数や熱狂ぶりから「次のYouTube」といわれているほどです。「リーグオブレジェンズ3」というゲームトーナメント実況の視聴者数は3,200万人で、2013年のワールドシリーズ視聴者数1,500万人の倍以上です。またポケモン全世界同時プレイの「Twitch Plays Pokemon」は何日間も世界同時に8万人が視聴しています。また近年はe-sportsの盛り上がりからも注目を集めています。Amazonは自社ですでに「FireTV」というストリーミングメディアボックスをリリースしていましたがあまりスケールしていませんでした。AmazonはTwitch買収により動画部門においてYouTubeに匹敵する優位性を得たのではないでしょうか。

Amazon.comのWhole FoodsMarket買収

これまでのAmazonの買収の中でも最大にして最も印象的であったのが「Whole FoodsMarket(以下Whole Foods)」の買収でしょう。2017年6月にAmazonは137億ドル(1兆5,000億円)で同社を買収しました。Whole Foodsはオーガニック食品を中心として扱う高級スーパーです。全米に約450店舗を持っており高級スーパーであることから都市部に店舗が多いのが特徴です。Amazonは近年無人コンビニである「Amazon Go」などのリアル店舗への進出を試験的に行なっていますが、Whole Foods買収はリアル店舗への進出と生鮮食料品分野の販売および販売ノウハウを得られるとしてまさにうってつけでした。買収後はAmazonで購入したものをWhole Foodsの店舗で受け取れるようにしたり、Whole Foodsの食料品をプライム会員に割引で提供したり、2時間以内の配送などもはじめています。Alibaba創業者ジャック・マー氏も唱える、「オンラインとオフラインを融合したニューリテール」の形が徐々に現れてきているといえるでしょう。

ジェフ・ベゾスのWashington Post買収

Amazonによる買収とは別で2013年8月、AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏が個人で1877年創刊の日刊紙「Washington Post」を2億5,000万ドル(約250億円)で買収しました。彼がWashington Postを個人で買収した理由は諸説ありますが、彼が「ジャーナリズム」というものに対して思い入れがあることをうかがわせる手紙をWashington Postの社員宛てに書いています。Washington Postは買収以前は年中人員解雇をしているような状況でしたが、ベゾス氏が100%オーナーになって以降、人員解雇をストップするどころか新規採用も行なっており、同紙を復活に導いています。ベゾス氏がオーナーとなってから打ち出した戦略の一つが「デジタル化」です。Amazonの「Kindle Fire」などで無料で読めるようにしたり、新アプリのホームページをなくすことで欲しいものにたどり着くまでに消費者が強いられる選択や判断を減らす仕組みを導入しています。2018年には昨年からのデジタル購読者数を倍増させ、2気連続の収益性を達成しています。

巨額の積極投資が成長の源泉

Amazonがここまでの成長を遂げた理由としてM&Aも含めた巨額の積極投資をやめないことが考えられます。ここ数年Amazonは4,500億円から1兆円規模の設備投資をし続けています。2017年度の売上高は1,778億ドル(約20兆円)ですが、設備投資だけで約100億ドル(約1兆1,200億円)費やしており、投資キャッシュフローはマイナス200億ドル(約2兆2,400億円)となっています。AIスピーカーである「AmazonEcho」や無人コンビニの「Amazon Go」といったものは巨額のキャッシュをテクノロジーに投資することによって開発されています。物流は「ラストワンマイル」が最も大きなコストとなることで課題となっていますが、Amazonは「ドローンによる空飛ぶ宅配」の実用化を目指しています。また自動運転の開発も行っているといわれています。DMMホールディングスの亀山会長は「ジェフ・ベゾスは最後まで投資しまくって死ぬと思う」と述べていますが、「世界中全てのモノの販売」を行うまでAmazonは積極投資をし続けるのではないではないか、と考えられます。

ライター:豊福ジャン(M&Aクラウドリサーチャー)日本証券アナリスト協会検定会員補

下記リンクより「Amazon.comのM&A総まとめシート」がダウンロードできます。

Amazon.comのM&A総まとめシート

 


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