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MicrosoftのM&A総まとめ。時価総額首位に返り咲いたM&A戦略とは


2018年10月15日Microsoftの共同創業者であるポール・アレン氏が亡くなりました。アレン氏はOSの代表格であるWindowsを始めとして、WordやExcelなどのアプリケーションによってパソコン市場を切り開き、共同創業者ビル・ゲイツ氏と共に時価総額首位になるなど、覇権を築きあげました。そして2018年11月30日、16年ぶりにAppleを抜き、8510億ドル(約96兆7000億円)で時価総額首位奪還を果たしました。Microsoftはサティア・ナデラCEOのもとで再び成長し続けています。今回、Microsoftの成長には欠かせない『M&A』に焦点を当て、過去の買収事例や買収戦略を振り返りたいと思います。また以前の「AmazonのM&A総まとめ」同様、公開ダウンロード資料として、Microsoftの過去のM&A(2000年~2018年)を時系列でリスト化した「MicrosoftのM&A総まとめシート」を掲載しています。

Microsoftの沿革

Microsoftは1975年ポールアレン氏とビルゲイツ氏によってニューメキシコ州のアルバカーキで設立されました。これには諸説あり、1975年時点ではMicrosoft社としては法人化されておらず、1981年に法人化されたそうです。当時ポールアレン氏とビルゲイツ氏はマイクロコンピュータの製造者であるMITSに電話をしインタプリタの実装のデモンストレーションをしたいと提案しインタプリタを開発したのがMicrosoftの始まりだと言われています。当初ビルゲイツ氏はハーバード大学に通っていたため、学期期間中にアルバカーキへ戻りインタプリタの改良などを手伝ったとされています。

1979年ニューメキシコ州のアルバカーキからワシントン州のベルビューに移転し、ビルゲイツ氏の次のCEOになるスティーブ・バルマー氏も入社しました。1981年にはMicrosoft社として法人化します。同年にMicrosoftがIBMのパソコン用オペレーティングシステムを開発する契約を結びMS-DOS1.0を採用したパーソナルコンピュータを作りました。

1986年には本社をワシントン州ベルモントに移し、株式公開。1995年には世界でMicrosoftブームの火付け役となる「Microsoft Office 95」が世界で発売開始されました。これは発売後4日間で100万本以上を売り上げました。1998年にビルゲイツ氏は会長兼CEOとなり、スティーブバルマー氏が社長となりました。2000年代以降はTabletやXboxなど数々の製品を発表しました。2014年にはスティーブ・バルマー氏からサティア・ナデラ氏へとCEOが代わっています。

Google検索エンジン調べ

2018年11月30日時点でMicrosoftは、16年ぶりに時価総額の首位を奪還したことは上記で述べましたが、12月7日時点ではMicrosoftの時価総額は8,092億ドル(91兆511億円)となっておりAppleに続いて2位となっています。Microsoftは世界で唯一20年間、時価総額のトップ5に居続けている企業です。90年代後半でいえばトップ5には日本のNTTや石油会社が入っており、この頃GoogleやFacebookはまだ存在していないです。2007年にはGEやシティグループが入っていました。近年の株価については2014年サティア・ナデラ氏がCEOに就任して以来、右肩上がりでMicrosoft株は伸び続けています。

MicrosoftのM&A戦略

そんな急成長を見せているMicrosoftのM&Aは、CEOそれぞれによって傾向や戦略も違います。今回は2000年に就任したスティーブ・バルマー氏と2014年に就任したサティア・ナデラ氏の2者のM&A戦略について考察したいと思います。ちなみに1975年~2000年まではビル・ゲイツ氏がCEOを務め、2000年~2014年の約14年間をスティーブ・バルマー氏が、2014年~現在に到るまでをサティア・ナデラ氏が務めています。

スティーブ・バルマーのM&A戦略

ロイターより引用・編集

スティーブ・バルマー氏は2000年にCEOに就任して以来、Microsoftは約100社買収しており、約240億ドルを費やしてきました。そのうち70億ドルはNokiaに、85億ドルをSkypeを買収するために使っています。後の個別企業の買収事例でも上記の二社については見ていきますが、スティーブ・バルマー時代の13年間においてMicrosoftのM&Aは買収時のバリュエーションを回収できていないという意味において、失敗であったと見られているものが多いです。SkypeやNokiaに加えてYammerなどはその事例に当てはまります。またGoogleへの対抗策として買収した「aQuantive」というオンライン広告企業の買収には60億ドル(約7,000億円)費やしていますが完全に失敗だったといわれています。M&Aについてバルマー氏は2007年に「今後5年間において5,000万ドルから50億ドルの範囲で年間20社前後買収していく」とM&Aに積極的な姿勢を見せていました。M&A戦略としてはオープンソースソフトウェアを活用する小さな企業を積極的に買収していくということを述べていました。Microsoft社自体はバルマー氏がCEOを務めていた13年間の間にスマホがでたことでWindowsPCの出荷成長率は伸び悩み、タブレットもiphoneとAndroidの2社に独占されるなど、同社にとって苦難の時期を過ごすことになりました。図で示しているように株価に関しても14年間で大きく伸びる機会はありませんでした。

サティア・ナデラのM&A戦略

ロイターより引用・編集

Microsoftはサティア・ナデラ氏がCEOに就任してから約4年ほどしか経っていませんが、これまで約45社を買収しています。買収の特徴として大型のM&Aを積極的に仕掛けていることがあげられます。2014年の9月にはMinecraftを運営するMojangを25億ドル(3,000億円)で買収、2016年にはLinkedinを過去最高額の262億ドル(約2兆9,800億円)で、そして2018年にはGitHubを75億ドル(約8,300億円)で買収しています。ナデラ氏は買収に際して共通項として「コミュニティ」の買収に力を入れていると述べています。Minecraftは「プレイヤー」、Linkedinは「プロフェッショナル」、GitHubは「開発者」というそれぞれのコミュニティを取りに行っているということです。CFOのフッド氏は「私たちはネットワークの市場、成長している市場、そして私たちがオーナーになれる場所を探しています」ともM&Aの戦略を述べています。株価の推移に関して見てみると、時価総額が16年ぶりに一時首位に返り咲いたと上記で述べたように株価は急成長を見せ、ナデラCEOは見事にMicrosoftを復活させています。

ここからはMicrosoftの代表的なM&Aについて7つの事例をピックアップし、個別に考察していきます。

MicrosoftによるForethought.inc買収

まずは1987年に行われたMicrosoftによる初めての買収であるForethoughtの買収です。Forethoughtは今ではMicrosoftの看板ソフトともいえる『PowerPoint』を開発した企業です。Forethoughtの買収はMicrosoftの買収のなかでも最も高い利益を出している成功事例の1つであり、現在PowerPointは世界10億台以上のコンピューターに搭載されています。Microsoftは買収を名乗り出ましたがFourthoughtは一度これを拒否、6ヶ月の交渉の末Microsoftは当初の3倍の額である1,400万ドルを掲示し、買収を決めたといわれています。当初ビルゲイツ氏はForethoughtの買収に乗り気ではなかったそうですが、側近や執行役員からの説得により買収を決めたといわれています。もし買収をしなかったら、1993年には既に年間1億ドルを稼ぎ出すこのソフトウェアをみすみす手放していたかもしれません。

MicrosoftによるSkype買収

2011年、Microsoftはネット電話最大手のSkypeを85億ドル(約7,700億円)と史上最高額での買収を行いました。Skypeは月間利用数が1億7,000万人に達しており世界で最も普及しているインターネット電話です。Microsoftによる買収以前はルクセンブルクに本社を置くSkype Technologyとして運営されていました。この買収は特に金額面で割高であるなど議論を集めていましたが、現時点でSkypeの買収は成功とはなっていないように思われます。2010年時点で10億ダウンロードを突破した時と比較して、2016年時点では、世界のメッセージアプリのアクティブユーザー数でSkypeは3億人となっており、第5位です。現在は1位のWhatsAppが9億人、2位がQQの8億6000万人、3位のFacebookMessengerが8億人と大きく離されています。これにはこれら代替アプリの登場に加えて、SkypeのUIが悪かったことや、スマホ対応が遅れたことなどがアクティブユーザー数を確保できなかった原因と考えられています。

MicrosoftによるYammer買収

2012年6月Microsoftは創立4年の企業版Twitter「Yammer」を12億ドル(950億円)で買収したことが発表されました。Yammer社は2008年9月にリリースされたエンタープライズ向けソーシャル・ネットワーク・サービスです。同サービスは不特定多数にメッセージが公開されるTwitterとは違い、組織内や組織のメンバー、指名されたグループの間でプライベートなコミュニケーションを取るために利用されています。2016年9月にはYammerをMicrosoftのOffice365 Groupsに統合することを発表しています。この統合によってYammerの単独提供はストップしOffice365ユーザーはYammerの全機能が利用できるようになりました。近年はSlackの台頭により苦戦を強いられています。

MicrosoftによるNokia買収

2013年9月Microsoftは世界最大の携帯電話メーカーであるフィンランドのNokiaの携帯電話およびサービス事業を54億4,200万ドル(約5,300億円)で買収しました。2013年通年での携帯端末市場シェアでは韓国Samsungについで2位となっており2億5100万台を出荷しています。この買収でMicrosoftは世界2位の携帯端末メーカーとなりました。しかしサティア・ナデラ氏が就任して以降は携帯電話事業からはほぼ撤退しています。

MicrosoftによるMojang買収

2014年9月Microsoftは多数のプラットフォームでの展開を経て世界中で人気を得たサンドボックスゲーム「Mineclaft(マインクラフト)」を運営するMojangを25億ドル(約2680億円)で買収しました。Mojangは通称「Notch」ことマルクス・ペルソン氏が創業したスウェーデンのゲーム会社です。マルクス氏は7歳からゲーム開発に興味を持ち、ゲームの投稿大会に入賞するなど、Mojang社を創業する前も熱心にゲームの開発・投稿を続けてきたことで有名です。今回の買収に際して特に反響をよんだのは、ペルソン氏を含めた役員3名が売却直後に会社を離れるという決断をしたことです。この売却により13億ドル(1500億円)を手にしたペルソン氏ですがTwitterや取材を通して「全てを得たことによってモチベーションが無くなった」「億万長者になったことを後悔している。幸せではない」とコメントをしています。

MicrosoftによるLinkedin買収

2016年6月Microsoftはこれまでの最高額である262億ドル(約2兆9,807億円)でLinkedinの買収を発表しました。Linkedinは2003年5月に開設されたビジネスプロフェッショナルに特化したSNSです。ユーザー数は世界で4億3300万人、有料ユーザーは200万人に上っています。買収時のLinkedinは売上約30億ドル(約3300億円)に対して、1.6億ドル(約180億円)の赤字を出していました。今回のLinkedin買収に際してサティア・ナデラCEOはLinkedinをMicrosoftとは独立して経営していくことを明言しています。またこの買収はLinkedinがMicrosoftのOfficeやDynamicsユーザーに対してカバーしていなかった重要な部分を押さえていると捉えていることも社内向けメモを通して述べています。

MicrosoftによるGitHub買収

2018年6月MicrosoftによるGitHub買収が行われました。買収価格は75億ドル(約8,300億円)となっています。GitHubはソフトウェア開発のプラットフォームであり、ソースコードをホスティングすることで複数人のソフトウェア開発者と協働して開発を行うことができるサービスです。今回のGitHubの買収も現MicrosoftCEOのサティアナデラ氏が就任して以来Officeシリーズのオープンソース化を行うなど現在のトレンドとなっているオープンソースの流れを反映したものといえるでしょう。今回の買収に際しナデラCEOは「わたしたちはユーザーに対しての責任を果たすことを約束します。GitHubのコミュニティは開発者を最優先する姿勢を貫き、独立性を保ちながらオープンなプラットフォームであり続けます。(以下略)」と述べていることから、買収後もGitHubの独立性を維持することが予測されます。

サティア・ナデラCEO体制で今後も成長が期待

直近のMicrosoftの通期決算(2018年6月期)では、売上高が過去最高の1,103億ドル(12兆円)となり、営業利益も過去最高の350億ドルとなっています。営業利益は前年比で57%成長しているなど、Microsoftは驚異的に業績を伸ばしています。ナデラCEOは、これまでMicrosoftが重視し続けてきたWindowsのOSへの依存から脱却し、クラウド事業に注力したことやこれまでのカルチャーを一新しイノベーションを加速させたことなど、多くの賞賛を浴びています。ナデラCEO体制でMicrosoftは「コミュニティ」を取りにいくM&A戦略を活用しながらも、ますますオープンイノベーション化を測ると考えられ、今後の成長にも注目したいです。

ライター:豊福ジャン(M&Aクラウドリサーチャー)日本証券アナリスト協会検定会員補

下記リンクより「MicrosoftのM&A総まとめシート」がダウンロードできます。

MicrosoftのM&A総まとめシート