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【2020年版】国内SaaSスタートアップの資金調達事情の最前線 -過去5年の資金調達額ランキング-


2019年のSaaS市場はSansanの時価総額1,600億円でのマザーズ上場や、フロムスクラッチが総額100億円調達SmartHRは総額61.5億円の大型調達をするなど、スタートアップ業界においてBtoB SaaSが大きな盛り上がりを見せました。

今回はそんな大注目のSaaS業界の中でも、成長著しいスタートアップに注目し、直近の資金調達事情や現在スタートアップ企業も大打撃を受けている新型コロナによるSaaSビジネスへの影響についてまとめました。

末尾には、直近5年間のSaaSスタートアップ企業の資金調達をまとめたファイルへのリンクがあります。

SaaS企業とは?

SaaSとは「Software as a Service」の頭文字を取った略語のことで、読み方は「サース」と読みます。SaaS企業とは、インターネットを経由して、クラウド上でユーザーが利用できるソフトウェアサービスを提供している企業です。

日本国内における代表的なSaaSとしては、企業向けグループウェア※として国内での導入社数が圧倒的に多い「サイボウズOffice」や、個人向け家計簿アプリで有名な「マネーフォワード」などのサービスが有名です。

サービスの多くは、ユーザー側でソフトウェアをダウンロードすることなく利用することができ、WEBブラウザのみで利用できるため導入しやすくなっています。世界規模でも市場規模がますます拡大しており、2021年の予測ベースでは1兆円の市場規模が予測されるなど、現在最も注力されている領域の1つになっています

グループウェアとは、組織内において掲示板機能等による情報共有やワークフローなどの決裁、共有スケジューラーなどによって円滑なコミュニケーションを行い、効率的に業務を遂行するためのソフトウェアを指す。

出所:株式会社富士キメラ総研『ソフトウェアビジネス新市場 2019年版』

SaaSスタートアップの資金調達・IPO状況が活況

Sansanの時価総額1,600億円でのマザーズ上場

SanSan株式会社は、「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに、法人向け名刺管理サービス「Sansan」及び個人向け名刺アプリ「Eight」を提供している会社です。

名刺管理のデータ化自体は、もともと専用の名刺登録用のスキャナーから情報を取り込む株式会社PFUの「ScanSnap」などの類似サービスがありました。「SanSan」では獲得した名刺を社内の営業リソースとして活用できるように単なる名刺情報のデータ化・共有化だけにとどまらず、名刺情報を基盤としてSFA・マーケティングなどのプラットフォームとして幅広く展開したことに特長があります。


複数回にわたった資金調達の結果、IPO前に100億円超の資金調達をしたことが有名で、大型の資金調達をもとに上場前に優先すべき最大限の社内成長投資を行っています。IPO後は、マーケティングオートメーションを行う「SATORI」を持分法適用関連会社化するなど、近似領域の事業会社への出資を行っていく様子が見えてきています。

 

フロムスクラッチが総額100億円調達

フロムスクラッチは、「スマートデータ社会の実現」のため、「創造し続ける」ことをミッションに、マーケティングプラットフォーム「b→dash」を提供している会社です。

マーケターにとって、マーケティングに関わる分析を行うためには、取り扱うデータ量が多いことに加え、データの収集に際して別々のソフトウェアから利用データを抽出して再加工しなければならないなど、分析以前での課題が多くありました。

「b→dash」では、プログラミングなどの専門スキルがない人でも、容易にデータ収集・レポート化・マーケティング施策の実行ができるように設計されていることに特長があります。

これまでの資金調達累計額は145億円にも上り、b→dashの開発強化や新規事業の創出を主たる目的として、積極的に投資しています。

 

SmartHRは総額61.5億円の大型調達

SmartHRは、「社会の非合理を、ハックする。」をミッションに、人事労務=HRTech領域の効率化を図る「SmartHR」を提供している会社です。

例えば入社処理時においては、個人から情報収集するにあたり、紙での対応を行わざるを得ない場合が多く、収集や記入漏れ・誤字脱字等の修正に時間がかかることや、収集後の行政手続きについても移動・郵送に時間を取られるなど、非効率な部分が多くありました。

「SmartHR」では、個々人が直接情報を入力することで、別システムへの転記等の対応も不要になるほか、行政手続きも電子申請で対応可能になるなど、人事労務領域でも特に負荷が大きい仕事である年末調整対応も非常に簡単に済ませられるという特長があります。

これまでの資金調達累計額は82.3億円となり、SmartHRの開発強化を主たる目的として、積極的に資金調達・社内投資しています。

SaaSスタートアップ企業の資金調達ランキング

今回は国内SaaS企業におけるスタートアップ領域に焦点を当て、資金調達事例をまとめました。なお、今回の集計定義として、SaaS系スタートアップを以下の通りにしています。

  • インターネット環境があればどこからでもアクセス可能で、複数のチームや複数の人数で編集や管理ができるサービス
  • その企業の主要サービスがSaaSとなっている
  • 調達時に会社設立から10年以上経過している、またはすでに上場している企業などの場合を除き、新興スタートアップ企業と認定できる

上記の条件に該当するSaaS型ビジネスを展開するベンチャー企業の資金調達を、プレスリリース情報を基に調査しました。

国内SaaS系スタートアップ企業の資金調達額ランキング

では、早速資金調達額ランキングを見ていきましょう。上位の企業については、下記で詳細を説明します。

参考情報:TechCrunchや BRIDGE(ブリッジ)などのプレスリリース情報を中心に作成

 

上位にランクインしている企業を見ると、フロムスクラッチSmartHRなどの特定業界に縛られない支援を行う水平型SaaS(Horizontal SaaS)が特に大型の資金をしている事例が多いのが大きな特徴です。

Vertical SaaS(業界特化型SaaS)とHorizontal SaaS(水平型SaaS)とは

Verticalとは、日本語では垂直を意味する言葉で、Vertical SaaS(業界特化型SaaS)はそこから派生して特定業界に特化したSaaSを指します。例えば、医療業界に特化してどの薬局でも電子処方せんを使えるようにするSaaSのようなサービスは、Vertical SaaSに該当します。

一方、Horizontalとは、日本語では水平を意味する言葉で、 Horizontal SaaS(水平型SaaS)は特定の業界に関係なく、どの業界でも使えるようなSaaSを指します。事例で紹介した、「SmartHR」はITでも小売でも人事労務管理として横断して使用できるので、Horizontal SaaSに該当します。

 

それでは、Horizontal SaaS(水平型SaaS)企業から注目のスタートアップ5社をピックアップして、累計調達額事業内容経営者の経歴資金の使用使途まで深堀りをしていきます。

第5位:プレイド(KARTE)

  1. 累計調達額
    43.8億円
  2. 事業内容
    リアルタイムで来訪者の性別や年齢、名前や過去の訪問回数といった情報を取得し、Web上での接客を可能にするコミュニケーションプラットフォーム(KARTE)を展開
  3. 経営陣
    1. CEO:倉橋 健太
      同志社大学を卒業後、楽天株式会社に入社。
      楽天市場におけるWebディレクション、マーケティングなど幅広い領域を担当したのち、2011年10月にプレイドを創業。
    2. CFO:武藤 健太郎
      東京大学を卒業後、株式会社日本長期信用銀行に入社。デリバティブ商品の開発や評価を担当した後、内資系のみずほ証券や、外資系のドイツ証券などの金融機関でファンドマネージャーや投資銀行業務に従事するなどしたのち、2018年10月にプレイドに参画。
    3. CTO:牧野 祐己
      東京大学大学院を卒業後、IBMソフトウェア開発研究所にて分散データベースの開発、並列プログラミング言語処理系の研究等の研究開発業務に従事。2015年1月よりプレイドに参画。
  4. 調達背景:
    1. マーケティング費用
    2. 事業領域拡大
    3. 人材の採用費・人件費
    4. 開発体制の構築・強化

 

直近2019年11月には、Googleからも資金調達(金額非公開)を実施しています。

参考資料
プレイド、Googleからの資金調達を発表
プレイドが総額約27億円の資金調達を実施

 

第4位:ABEJA(ABEJA Platform)

  1. 累計調達額
    62.3億円
  2. 事業内容
    POSやシフト、天気などといったデータと、実際に店舗に設置したIoT機器を用いて取得した顧客データを組み合わせる事により原因分析を行う事が出来るAIプラットフォーム(ABEJA Platform)を展開
  3. 経営陣
    1. CEO:岡田 陽介
      愛知工業大学を卒業後、2011年に株式会社響取締役CTO就任。その後東京のスタートアップを経てシリコンバレーに滞在し、最先端コンピュータサイエンスをリサーチ。帰国後、2012年9月に株式会社ABEJAを創業。
    2. CFO:加藤 道子
      国際基督教大学卒業後、2007年モルガン・スタンレー証券に入社、M&Aや資本調達を担当。2010年に世界銀行グループIFCに入社し、新興国投資を担当する。Harvard Business SchoolにてMBA取得後、ユニゾン・キャピタルでプライベート・エクイティ投資を担当。2018年7月にABEJAに参画、社長室長を経て財務責任者を歴任したのち、2019年6月に同社取締役就任。
  4. 調達背景:
    1. 世界展開の加速
    2. 自社サービス「ABEJA Insight」の開発費
    3. 組織体制の強化

 

プレイド同様にABEJAも2018年12月にGoogleから資金調達(金額非公開)を実施しています。


参考資料
NTTぷらら、ABEJAへの出資と業務提携について
ABEJA、Googleより資金調達

 

第3位:ベルフェイス(bellface)

  1. 累計調達額
    64.2億円
  2. 事業内容
    Webブラウザさえあればやりとりができるオンライン商談システム「ベルフェイス」を展開
  3. 経営陣
    1. CEO:中島 一明
      起業を志し高校を一年の一学期で退学、15歳で土木会社に就職。その後、19歳で世界一周をしながら200枚のビジネスプランを作成。21歳で2007年に株式会社ディーノシステムを起業、中小企業経営者を動画で紹介する広告メディア「社長.tv」を展開。2015年4月に同社を退任しベルフェイスを設立。
    2. CFO:土井 裕介
      広告配信プラットフォームの運営を主として手掛けるユナイテッド株式会社や、ブティック型のM&A仲介企業の管理部門でのマネジメントを経て、2019年4月にベルフェイスに参画。同年10月より現職就任。
    3. CTO:松田 優作
      キヤノン系SIerにてWebシステム開発に3年ほど従事した後、ライブドアグループEC事業会社にて年商60億を超えるECの開発責任者を務める。退職後2社の技術顧問、介護、医療系Webサービスベンチャーにてシステム部門責任者を歴任。2017年6月ベルフェイス入社、同年10月よりCTO就任。
  4. 調達背景:
    1. 自社サービス「bellface」の開発費
    2. マーケティング費用
    3. 人材の採用費・人件費(300名)

 

参考資料
ヒラメ筋CMのベルフェイス、52億円の資金調達を実施~26億円を人材採用に投資~
ベルフェイス、総額5億円の資金調達を実施

 

第2位:SmartHR

  1. 累計調達額
    82.3億円
  2. 事業内容
    企業が行う入社手続きや雇用契約、年末調整などのあらゆる労務手続きのペーパーレス化を可能にするクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を展開
  3. 経営陣
    1. CEO:宮田 昇始
      専修大学卒業後、フリーランスとしてwebサイトやアプリケーションのディレクションを複数の企業で担当したのち、2013年株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。
    2. CFO:玉木 諒
      京都大学卒業後、2007年にPwCあらた監査法人に入所し国内・海外の上場企業の監査業務に従事。その後山田ビジネスコンサルティング株式会社にて事業再生コンサルティング業務を経たのち、株式会社サムライインキュベートにてスタートアップ投資及びファンド管理業務を担う。2017年10月よりSmartHRに参画、2018年1月より現職。
    3. CTO:芹澤 雅人
      早稲田大学卒業後、株式会社ナビタイムに新卒入社。経路探索や交通費精算、動態管理といったサービスを支える WebAPI の設計と開発を担当。SmartHR にはサービスリリース直後から参加し、開発業務のほかVPoEとしてエンジニアチームのビルディングとマネジメントにも従事。2019年1月より現職。
  4. 調達背景:
    1. 自社サービス「SmartHR」の開発費
    2. 人材の採用費・人件費
    3. マーケティング費用

 

参考資料
SmartHRが約61.5億円のシリーズC資金調達を実施
SmartHRが61.5億の大型調達、攻めのファイナンス戦略

 

第1位:フロムスクラッチ(b→dash)

  1. 累計調達額
    145.0億円
  2. 事業内容
    「集客」「販促」「売上・顧客管理」をおこなうことのできるマーケティングプラットフォーム(b→dash)を展開
  3. 経営陣
    CEO:安部 泰洋
    日本大学卒業後、株式会社ネオキャリアに新卒入社。入社半年で新規事業責任者に抜擢され、半年間で事業の黒字化に成功。その後2008年2月株式会社リンクアンドモチベーションにて組織人事、採用コンサルティング業務に従事したのち、2010年4月に株式会社フロムスクラッチを創業
  4. 調達背景:
    1. 自社サービス「Data Palette」の開発費
    2. 世界展開の加速
    3. 新規事業
    4. 人材の採用費・人件費

 

参考資料
【データマーケティングプラットフォーム「b→dash」 開発のフロムスクラッチ、 KKRやゴールドマン・サックス他、既存株主から100億円の資金調達の契約締結が完了】
フロムスクラッチ、KKR、GSから100億円規模の大型調達

 

Horizontal SaaSでは市場規模やターゲット社数が大きい分、新規参入を含めた競合他社も多くなっています。そのため、 大型の資金調達を早期に行い、人材採用・開発体制の強化とTVCMなどを含めたプロモーションを行うためのマーケティング費用に投じて先行者優位を取る施策展開が多く見受けられるようです。

コロナウイルスの影響でSaaSスタートアップがどう影響を受けるか

コロナウイルスの影響を受ける、SaaSスタートアップ企業も多い

中国の武漢から始まったコロナウイルスの蔓延は、中国国内にとどまらず、全世界中に波及しています。2020年4月13日現在では、感染者数で182万人、死者数は11.2万人にものぼるなど、依然として猛威を振るっている状況です。

今回、近年発生したSARS、MARSと対応が大きく異なっているのは、世界各国の主要都市が封鎖されている(ロックダウン)ことです。店舗での営業が困難であるため、消費活動が促進されずにお金の流通が止まってしまうなど、個人消費を中心として経済活動に大きな支障をきたしています。

コロナウイルスによる影響としては、業界を問わず以下が考えられます。

  • 営業サイクルが長くなる
  • オフラインによるリード獲得が難しくなる(外部イベント等の減少)
  • 対面営業が難しくなる
  • 意思決定までに時間がかかる(特に大企業)

上記の結果として、営業がクロージングするまでの期間が長期化することでCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)※が長くなり、資金繰りが重要な課題の1つであるスタートアップにとっては影響が起きやすいです。

※資金回収の期間を表す経営指標のことであり、企業が生産のために現金を投じてから製品販売を通じて現金として回収するまでにかかる日数のこと。

また、コロナウイルスの影響による大きな特徴として、業界別に影響が異なるということが挙げられます。例えば外食やイベント、旅行関係のようなオフラインを前提とした消費行動は顕著に落ち込みますが逆にECや動画ビジネスなどオンラインを前提にしているビジネスはユーザー数を伸ばすことが出来る可能性があります

例えば、米国では、ビデオ会議サービスを提供するZoomや動画ストリーミングサービスを提供するネットフリックス株価を大きく上昇させています。国内でも、ベルフェイスなどのオンライン商談システムを提供する企業は、対面営業が難しくなった影響により利用社数が増える可能性が高いと思われます。

参考:感染拡大でビデオ会議Zoomが株価上昇、ネトフリにも追い風

SaaSを利用する企業サイドとしても、基幹システムとして使用されていない限り、コストカットの一環としてチャーン(解約)するサービスが増えてくることが想定されます。
例えば、会計・人事労務SaaSなどの、事業運営に欠かせないドメインやスイッチングコストの高いサービスは継続されやすい傾向にあると考えます。

コロナ影響により生まれる商機

東京都の小池百合子知事は4月7日の記者会見で、政府の緊急事態宣言を受け、5月6日まで都内全域で外出自粛を要請すると述べました。これにより、いままでビジネスで大前提とされてきたことが、大きく変化する可能性があります。最後に、コロナ影響によるビジネス上の変化を下表にまとめてみました。

コロナ影響によって起こるビジネス上の変化

  コロナウイルス前 コロナ影響で起こること
組織
  • 閉鎖的・属人的なマネジメントによる問題の潜在化

  • これまで明るみにならなかった問題の顕在化・低減化施策の実施
  • リアルタイムでの情報の整理・収集体制の構築
働き方
  • オフィスに出勤することが前提
  • 押印対応によって、出勤せざるを得ない
  • リモートワークが前提
  • リモートワークで対応できるよう、業務が標準化・SaaS化される
  • 社内MTGの調整などの無駄な時間が削減
採用
  • 来社対応が中心
  • 紙の履歴書などの持ち込み、管理が必要
  • WEB面接が中心
  • 面接までのリードタイムや移動時間、面談スペース等の制約が小さくなり、面接数を増やせる
  • 面談者情報がデータで管理・蓄積される
営業
  • 顧客オフィスの訪問を中心としたフィールドセールスを展開
  • オフラインマーケティングとデジタルマーケティングを混在したプロモーションを実施
  • WEB商談が促進
  • テストしやすいフリーミアムモデルなどの導入しやすいプランの利用が進む
  • デジタルマーケティングにシフト、ナーチャリングを強化する施策の実施

 

下記リンクより「SaaSスタートアップ資金調達額ランキングTOP50【2016-2020】」がダウンロードできます。

SaaSスタートアップ資金調達額ランキングTOP50【2016-2020】

 

また、SaaS企業のIPO事情をまとめた「【SaaS編】国内IPO企業まとめ【2015-2019】」もこちらからダウンロードできます。

【SaaS編】国内IPO企業まとめ【2015-2019】

 

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M&Aクラウド -SaaSスタートアップへの積極買収・出資企業一覧